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本当の気持ちが見えないでしょう

 俺の叫び声にフェールのゲーム友達は大きく舌打ちをした。

 悲しい事に俺が彼等の友人に攻撃したという非難でなく、俺の大声でコントローラーの操作を誤ったという事に対する非難的行為である。

 さらに、フェールが遊んであげないといけないと数十秒前に叫んだ魔王様は、ぐるりと首だけ振り向かせて、遊んでくれていた恩人を切り捨てにかかった。


「フェール。カイユーが僕と対戦しているから抜けても大丈夫だよ。」


「だってさ。さあ、寝ころんだままでも相談を聞いてもらうぞ。」


 そうして何があったのかの事情を、俺は彼に全て語って聞かせた。

 もちろんアリッサのプライバシーもあるので、シロロやカイユーに聞かれないようと小声でこしょこしょとだ。


 すると、俺の相談を聞いた男は俺に一晩看病してもらったという恩があるにもかかわらず、二十歳のくせに十代にしか見えない童顔のくせに、その顔を百歳の老人に見える程にクシャっと皺だらけにして俺に見せつけた。

 そして、のそっと起き上がると、偉そうに胡坐をかいた。


「あなたのそういうデリカシーが無い所が駄目なんじゃないですか?」


「だからさ、どこが悪かったのかわかるように教えてくれって。」


 俺も彼の真ん前に胡坐をかくと、彼はマレーグマのように頭を抱えてぐりぐりと上半身を動かした。

 それどころか大声で喚きやがったのだ。


「うあああ!絶対に言ってもわかんないよ、このおっさんは!で、誰かに似ていると思えば、あのノーラさんじゃないか!」


 ノーラという単語に反応するのは、当り前だがノーラの恋人である。


「あ、何?ノーラが関係あるの?じゃあ、ノーラを呼びましょうよ?」


「ばか、カイユー!ダグド様と似てるって話なんだから、絶対にノーラ呼んでも無意味だって。っていうか、しばらく呼ぶな。いいか、俺が良いと言うまでノーラと団長の接触が無いようにお前が注意しろよ!」


「え、どうして!ノーラは俺だけだよ!団長にキスされても俺だけだって言ってたもん。俺とじゃないとドキドキしないって!」


 フェールはカイユーに振り向いたまま数秒固まり、それから何事も無かったような顔で俺に振り向いて、あいつは普通に馬鹿ですから聞き流してください、と冷静に口にした。

 実は俺もその場にいて、ノーラがアルバートルにキスされるところ、それも腰砕けになるぐらいの物凄いディープキスをされた現場は目撃していた。

 しかし、そのキス行為が自分が汚れていると嘆くシェーラに対してのアルバートルの解答でもあるので、つま開きになんてできないだろう。


「男が汚れていると嫌がる経験ってな、こういう凄いキスをされた女の経験だよ!お前のはただの大怪我だ。気にするな。お前は汚れてなんかいねえよ。」


 アルバートルは俺を非常識扱いするが、彼こそ、だと俺は思う。


 俺はフェールに頷いて見せたが、ノーラのキス事件について全く知らないフェールは自分の団長の不埒な行いを俺に流させようと気を使ったのか、数十秒前とは違って表情を柔和な友好的なものに変えた。


「で、こういう場合の相談相手でしたら一番良いのはエレノーラさんでしょう。どうしてエレノーラさんに尋ねないのですか?」


「そんなの。エレノーラに反省してきなさいって叱られて俺が追い出されているからに決まっているだろうが。反省するまで俺は家に帰れないんだよ。畜生。フェールが駄目なんじゃ、やっぱりティターヌか。」


「――どうして最初からティターヌにしなかったのですか。」


「笑顔で説教を一時間くらい喰らわせられそうだからに決まってんだろ。笑顔で叱責。エレノーラに似てんだよ、奴は。俺は叱られて反省するつもりだけどね、長々と説教を受けるのは嫌なんだよ。」


 俺に実の子供のように看病してもらった男は、俺に対して弱っと吐き捨てた。


「そう、俺は弱いの。だからさ、教えてよ。俺の言ったどのあたりがあの子を傷つけたのか。」


「もう。あなただって嫌でしょう。好きな人が命令されて自分の恋人になったとしたら。そんな相手に何を言われても、全部が嘘に聞こえるでしょう。本当に好きだって言ってもらえても、相手を信じられない気がするでしょう。」


 俺はフェールをまじまじと見つめ返し、彼は何て優しくて気配りのある男だったのだろうと感激していた。


「ありがとう。フェール。」


 そして、こういう時に限って子供は大人の話を聞いているものである。

 それも間違った風に。


「あ、でも俺はフェールが俺の親友だって思っているよ!団長やイヴォアールが俺達は仲良くしろって言ったってさ、そんな事を言われる前に俺達は友達になってたじゃん。」


「あ、僕もです!ダグド様が僕に優しくしなさいって言う前から仲良しですから、僕もカイユーとフェールがお友達だと思っています!」


 ゲームコントローラーを両手に持ったまま振り向かずに叫んできたゲーム仲間達にフェール振り返り、彼はそれから数秒間そのまま動きを止めた。


「ゲームをしながらって。ぜんっぜん心に響かない上に、なんかうるせぇよって怒鳴り返したくなる言葉にしか聞こえない」


「君は経験値がいち増えた。」


「やめてください!」

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