べべって赤ちゃんの事
ここまでのあらすじ
フェール君は昔の女にちょっかいを出されて死にかけ、俺が存在を忘れていたポータルでシロロ様が狩りをして、そして、リリアナの色香に惑わされたアルバートル様が子持ちになった。
馬鹿だなあ、あいつ。(by ダグド)
アリッサの髪色はストロベリーブロンドという、赤毛ではなく仄かにピンクっぽい金髪という不思議なものである。
瞳の色はヘイゼルと呼ばれる不思議な色で、黄色にも薄い緑色にも光の加減によって見える薄い褐色というものだ。
猫の瞳の美しさを思い浮かべて貰えればわかりやすいのかもしれない。
彼女自身猫のようにしなやかな細身の肢体に、躍動感はあるのに猫のように煩く感じない存在、そして、誰もがうっとりとする気高い美しさという猫の化身そのものなのでヘイゼルの瞳は彼女が持つにふさわしいものと言えよう。
そして俺がなぜ敢えてアリッサの外見の美しさをあげつらっているのかは、子供のように泣く彼女に繰り返し外見を褒めて慰めているからである。
なぜ内面を引き合いに出して慰めないのか。
それは、彼女が自分を否定されたと泣く原因が、彼女の外見によるものだと彼女が俺に言うからである。
「わたしの外見では誰にも欲しがられないの?」
「子供で片付けるけど、私が可愛いならあと二年ぐらい待つぐらい平気でしょう。それでも選ばないのは私が二年たっても素敵にならないってわかるからだわ。」
「ノーラは楚々とした美人だって彼は褒めるじゃない。抱きたいって彼が言った事もあるのよ!私はそんなにはすっぱに見える下品な外見なの?下品すぎて抱きたい女性には絶対に見えないって事なの!」
俺は彼女に何度も違うと否定し、君は本当の本当に可愛いんだよと、俺は彼女を見たら異性でも同性でも彼女の美しさに溜息をつくものだと何度も伝え、もう、何時間だ。
「君は本気でアルバートルが好きだったんだ?」
俺の腕の中でアリッサはすんと鼻を啜った。
「そ、そんなんじゃないですわ!最初から数にも入っていないと言われた事が許せないの!わ、わたしは、べべちゃんだって。ずっと彼にはベベちゃんだって!」
俺の腕の中で泣く彼女に、俺は珍しくも俺の領地に来たばかりの八歳の頃の彼女を思い出していた。
大人びた言葉遣いや振る舞いを必死にしていても、八歳の子供でしかなかったあの頃の彼女だ。
十七歳ともなっている最近は、本気で子供らしさも無くなったと俺は嘆いてもいたのだが、彼女は体が大きくなって上手に自分の子供らしさを隠せるようになっただけで、なんと、俺が鈍感だっただけで彼女はあの頃のままの可愛い女の子だったのだ。
これでは、百戦錬磨なすりっからしの色男には、彼女が摘んではいけない赤ん坊にしか尚更に見えない事だろう。
「わかった、こうしよう。君とアルバートルを婚約させる。婚約期間は二年間。その間は君はアルバートルに一切誘いと言える行動を取らない。いいかな。婚約者でも普通の知人としてのお付き合いだ。君は二年たったらすごい美女になるんでしょう。二年後に君は解禁だ。好きに誘ったり、すぐに結婚でもいいよ。そして、アルバートルも二年間身ぎれいでいる。どうかな?」
俺は娘にしたこの話を、無理矢理当事者にしたアルバートルに持ち掛けた。
アリッサは俺の提案を喜ぶどころか、俺がわかっていないと叫んで部屋に籠ってしまったからだ。
どこが悪かったのかわからない俺は、アリッサに言った婚約話をアルバートルに言ってみて、何が悪かったのか確かめたかっただけだった。
前世で年の数だけ独り身だった俺は、女の子の気持ちなんてわからない。




