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聖女パナシーア

 パンが無ければケーキを食べろ。


 そんな考え方なのか、パナシーアはポータルが使用不可となった腹いせにフェールの体をゲートに変えようと試みていた。


 幼い頃に散々に彼女に虐待されていた彼の肉体は、表面は綺麗でも中は魔法によって組成し直されたところもあったのだ。

 俺達が迎賓館に戻った時にはフェールは血反吐を吐きながら激痛に身を捩っているという有様で、イヴォアールとティターヌに手足を押さえつけられているという状況であった。

 浴衣など完全にはだけており、彼は完全に自分の裸体を晒している。


「リリアナ。俺はどうすればいい?」


 アルバートルの声は地獄から響いているぐらいに低く殺気を帯びており、リリアナはその声に脅えるどころか、敵が見えたら迷わずに斬れと返した。

 俺達はフェールのベッドへと真っ直ぐに向かう彼女の後姿を見守るしかない。


「しっかり押さえつけていて。少しでも動けば彼の内臓が完全に壊されてしまう。出来るかしら。フェール、あなたも我慢できるかしら?」


 イヴォアールもティターヌも返事は返さなかったが、彼等はフェールの四肢が砕けると思う程に強く押さえつけ直し、痛みに苦悶していたフェール自身は、大きく息を吸った後ににやりとリリアナに顔を歪めて見せた。


「良い子ね。では、参ります。」


 リリアナがフェールの裸の腹に右手を乗せると、そこに金色の文字を伴った魔法陣が展開し、彼女はそのまま、なんと、右手と言わず右腕そのものをフェールの腹に肩まで突き通したのだ。


「う、ぎゃあああああああああああああああああああ。」


 それからは一瞬だ。

 おっとりしていた彼女からは信じられない速度で彼女は身を起こし、フェールの叫び声の中、フェールの腹から色とりどりの白いものを取り出して部屋に放り投げたのである。

 真っ白い肌に殆ど体を隠していないような白い衣装をまとわせて、金銀財宝と入れ墨まで全身に施した魔女は、何が起きたかわかってはいなかっただろう。


 彼女は驚いた顔のままどころか痛みを感じる間もない位にアルバートルに一刀両断されて命を失い、俺は落ちる血の始末も面倒だと死体から血が吹き出す前に城の焼却炉に彼女を放り込んで焼却した。


 何と素晴らしいベルトコンベアー的チームワーク。


 リリアナに助けられた青年は完全に気を失っていて良かった。


 美しきリリアナは変化していた。


 美しかった顔は爬虫類のようなぬっぺりとしたものとなり、瞳の色は紫色のそのままだが、瞳の形はトカゲか蛇のようなものである。


「おう!すげえな。君は竜族か!絶滅していたはずの竜族の姫君か。すごいな、君は色々と意外性があって俺は惚れちゃいそうだよ!」


 リリアナはぐるっと頭を回すと、アルバートルをねめつけた。

 元通りの美しい顔で。


「あなたは節操がなさすぎるわ。」

「そうかな。複数でベッドで楽しもうって君が誘って来たこともあるじゃないか。複数が好きなら適当な団員を見繕ってあげるよ。」

「あら、あなた一人じゃ私には不足しそうってことかしら?」

「ハハハ、じゃあまずは一対一だ。」


 アルバートルはリリアナに気安そうに肩を抱き、リリアナはそんな彼の手を厭らしいもののように叩いたが、なぜか二人は腕を組んで部屋を仲良く出て行った。

 俺は聞き捨てならない台詞をアルバートルの口から聞いていたが、聞き捨てたまま何事も無かったようにしてフェールの手を握ることにした。


「ええと、フェールに服を着せてあげようか。明日には熱が収まるかな。普通の風邪みたいで良かったよ。そう思わないかな!」

 フェールを拘束していた大男たちはあからさまに俺に溜息をついた。

「ダグド様、この領地が幸せな理由がわかった気がします。ですから、お願いですから、モニークとの結婚の時期を決めさせていただけませんか?」

「イヴォアール。君のそういう所が先に進めない理由だと思うの。団長みたいに結婚前にやるぞと脅しつけるぐらいじゃないと。」

 俺は俺に乗ってくれたイヴォアールとティターヌに感謝してしまっていた。

 だから、六月の花嫁は幸せになると呟いてしまったかもしれない。


 俺はちょっと今日は疲れてしまったんだ。

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