この不幸な人は、誰?
リリアナは当たり前だが全員の作文を俺達が聞くことを望んでおり、彼女に脅えた俺とフェールはシロロの後の子供達の作文もしっかりと聞いた。
そして、純粋だが可愛い子供がダグド領には一人もいないという事実を、俺達はしっかりと受け止めた。
一番可愛くないだろう怖いだけの魔王様が、ハイどうぞと、フレッシュな生首を可愛らしく差し出してきた時も、俺達は頑張って笑顔で受け取ったのだ。
「だからさ、俺を責めるのは止めてくれ。君こそ迎賓館という堕落の館でだらだらしている体たらくだろうが。」
叱られる事が嫌いな俺は、昔は現代人だったために逆切れを選んだ。
しかし、中世人的考え方と中世人的な生活様式を完全に捨て去って日々堕落している保安部隊長であるアルバートル様は、俺の逆切れには鼻で笑って返した。
真冬なのにいまだに小麦色の肌をして、プラチナブロンドに青い海のような真っ青な瞳を持つ真夏のような男は、完全に西洋の美男子であるにもかかわらず俺があげた、いや、帯はあげた俺のものでも丹前は俺があげた鶯色のものではなく丹前らしい物凄く派手な縦模様のものを着ていた。
「その丹前は誰からせしめた。」
「あなたの可愛いアリッサちゃんからです。ご心配なく。お礼のキスは首筋までにとどめておきました。まだあの子はベベちゃんですからね。」
「き、ききききききき。」
俺は壊れただけで二の句が継げなかった。
そして、アルバートルに身を固めろと言ったばかりでなく、娘達にアルバートルを狩っても良いと言ってしまった自分を激しく呪っていた。
アリッサは本気でアルバートルを落とそうと考えているのか、彼に纏わりついているのである。
「団長!嘘ばっかりは止めてください。ダグド様が本気にして先が進まないじゃないですか。」
「え、嘘なの。それじゃあ、この丹前は誰が?」
「ティターヌとカイユーですよ。彼等は団長の為なら何でも作ります。それで、団長!これです!この男に見覚えがありますか?」
フェールは生首の顔が見える様にして革袋を捲った。
「すげぇな。子供の作文で本気で生首か!俺も見たかったですよ。そんな暗黒作文大会。それで、こいつは、ああ、知っています。聖女パナシーア様の下僕の一人、シェイプシフターのズッソですね。こいつはいやらしい奴で、こんなデカブツなくせに仔犬サイズにも変身できるのですよ。その場合の重量はどこに隠しているのやらって、俺はいっつも不思議でしてね。そうですか、コイツがダグド領に紛れ込んでいましたか。」
俺は素直になるしかなかった。
「ポータルの存在を忘れていてすいません。」
「ハハハ、いいですよ。今後は破壊していただけるのでしょう。」
俺は洗濯ものが、と言いかけたが、素直に頭を上下するしかなかった。
よく考えれば、俺達の生活の場に他人が踏み込んでいたという事実が気持ちが悪く、広間にある食事を運ぶためのエレベーターにこの死体となった男が乗り込んでいたと思ったら、食事までも汚染されたような気持になったのだ。
「ああ、くそ。シロロとリリアナの所業に褒美をやりたいくらいだよ。はぁ。で、ポータルってどうやって破壊するの?」
アルバートルは久しぶりにこの領土に来たばかりの顔をした。
つまり、俺や領地に慣れ切った今の顔でなく、領土の不思議さや自分の身の上の不確かさからか時々していた、何か忘れ物をしているように考え込む顔だ。
彼はうーんと悩みだし、俺は彼が物凄く絵になるなと考えながらも、彼はポータルの破壊方法など知らないなと確信はしていた。
これはポーズだ。
彼は何でも知っている男を演じるがために、今の所思い出せないだけ、ああ、きっと教会の術に嵌ったのでしょうね、誰かさんがポータルで教会の術者を引き入れていらっしゃったから、ぐらいは言ってのけるだろう。
「あ、やばい。そういえばポータルの破壊は聞いた事も方法も知りませんでした。すいません。お役に立てずに。」
俺は舌打ちをして見せたが、この舌打ちは急にいい奴ぶりやがっての舌打ちでしかなく、彼が知らなかった事への憤懣では無い。
「俺だって知らないって言う時もありますよ。」
「ああ、本気で畜生!」
彼はハハハと大きく笑い声をあげると、俺を喜ばせる振る舞いをしてくれた。
口元に手を当てて叫んだのだ。
「シロロ様ー!」
控えていたフェールが自分の上司の他力本願に舌打ちをして見せた。
こういうのはお約束なんだよと、軽い青年を演じながらも意外と遊びが少なかったフェールに俺は言ってやりたい。
君の相棒のカイユーはもうちょっとノリがいいよ、とも。




