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この木は何の木

 ドリアードの悲鳴は俺達を動けなくするほどのものだったが、それはほんの数秒で効力を失った。


 世界が無音となったのだ。


 それはティターヌが立つ隣に現れた蜂蜜色の美女の力によるもので、彼女はドリアードと同じ音域の同じ波長の声を出す事で無音の世界を作り出したのである。


 いや、きっと俺がそう思うだけで、すさまじい音の応酬が行われている筈だと、俺は無音だろうが何だろうが鼓膜を守るために耳から両手は離さなかった。


 そんな動きを止めている俺達の所へ、リリアナは機械人形のように口を開けたまま動いてきており、俺はドリアードよりもリリアナが怖いと素直に思った。


 いや、俺だけでなく、ここにいる全員がそうだった。


 彼らは耳を塞いだまま固まった姿で、唯一自由に動かせる目玉だけでリリアナを追いかけているのである。


 リリアナはドリアードのすぐ手前まで行くと、そこで右手を翳して、俺達の鼓膜が本気で破れそうな音域の声を出した。

 木はメキメキと割れていき、破片となってまた再構築し、いつの間にか普通に土から生えているという単なる木の姿に戻っていた。

 まるで今までの事が夢であるかのように。


「シグルド。」


 え?と俺は両耳から両手を下ろしていた。


「シグルド。あなたは自分を取り戻して?」


 木の幹から男の顔がにょっきりと突き出すと、彼は俺には聞こえない言葉をリリアナに幾つかかけて、そして、ぼわっという風に弾けて消えた。


「り、リリアナ!今のは!」


 俺から背を向けている娘は、俺にごめんなさいと呟いた。


「ごめんなさい?」


「ごめんなさい。ダグド様。わたくしは死んだシグルドの魂だけでも傍にいて欲しかったから、とても良い香りのする花を咲かすこの木に彼の魂を入れてしまったの。」


 俺は「そうか。」としかリリアナに返せなかったが、それは彼女の裏切りに心を痛めていたからではなく、俺の攻撃でぱちぱちと実が爆ぜて香しい香りを辺りに漂わせている木がコーヒーの木だと確信を得たことで気もそぞろだったからに過ぎない。


「ありがとうございます。あなた方のお陰でシグルドが自分を取り戻して、ようやく天へと昇ることが出来ました。」


「そうか。」


 俺の頭の中はどうやってこの木を増やして行こうか、そればかりである。

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