第二工場は激戦中
竜騎士団は野菜工場の低木用の温室に集結しており、そこでドリアードと戦闘を繰り広げていた。
そこの天井は建物の二階ぐらいの高さがあり、ドリアードさえいなければ雪景色の中にある緑の天国という、ピクニックにも最適な場所である。
そんな素晴らしい場所を住処にして領民と俺から奪ったドリアードは木のくせに敏捷で、尚且つ、木のせいか竜騎士の攻撃にびくともしなかった。
「炎だ、炎!フェール、あの中二病攻撃をやってみろ。」
「ああ!そんな酷い事を言うならば、俺はあの攻撃を封印します!」
俺の酷い言葉に素直に反抗したフェールは、当たり前だがイヴォアールにどつかれて、さっさと攻撃しろと追い立てられた。
「いいからダグド様の言う通りに動け。お前のファイヤーボールで燃えなくても、奴のストッピングにはなるだろう。」
「うへえ。」
ガガガガガッガガガガ。
これはフェールの攻撃ではなくティターヌのガトリングである。
「どうだ?ティターヌ。」
「ダメですね。穴は開きますが全くストッピングどころじゃない。木には痛覚なんて無いものですものね。」
「だね。じゃあ、俺も参戦してみるか。」
瞬間移動して久しぶりに目にした木は、思いのほか大きくも無かった。
四メートルの高さぐらいの細い幹で、細い枝が長く垂れ下がるように無数に生えており、その枝のどれにも光沢のある大き目の葉っぱが付いており、枝には赤い小さな実がとこどどころで揺れているというものだ。
普通に想像する楢科の木々のような木でない所から、俺は物凄く期待も溢れていたがそれ以上に喪失感が込み上げていた。
これって、コーヒーの木なんじゃね?という期待に対しての、この世界のコーヒーの木ってこんなのなの?という喪失感だ。
つまり、俺はこの世界で一生コーヒーが飲めないという事実に突き当たったという、竜の一生って何年なのとシャウトしたくなるほどの絶望である。
「畜生!絶対飲めないなら、俺はこいつを目の前から排除してやる!」
俺は右手を払うようにして木に向けて、破壊竜の名にふさわしいぐらいの火力の炎をドリアードに浴びせた。
「きゅい!僕も!」
炎で怯んだドリアードに対して、真っ黒な弾丸がどっかーんとミサイルのようにして真横からつっこんだ。
ドリアードはシロロの攻撃に怯むどころか、バタンと初めて倒れた。
俺がシロちゃんはどこから来たのと問いかける間もなく、アルバートルよりもしっかりしていたイヴォアールの号令の声が上がった。
「よし!スクロペトゥムは一斉射撃。起き上がってきたら俺とフェールが剣で切りかかる。」
「うへぇ。」
だが、ドリアードは賢かったようだ。
むくりと起き上がるどころか根っこを土に埋め、俺達の足元に次から次へとその根を使って刺し貫こうと飛び立たせてきたのだ。
「うわ!あぶね!」
「うわ、ダグド様!」
俺もうわっと言いながら根っこを避けていたが、ゴム飛びをしているような間抜けな状況に陥ったからか、俺は根本的な疑問を思いついていた。
「ねえ、ドリアードって生まれながらにして、だっけ?」
「うわ、って。違いますよ!精霊が入り込んだ木だってことで!うわ!」
根っこを避けながらも律義に応えてくれたのはイヴォアールであり、俺はもう少し彼に優しくしてやろうと考えてしまった。
何しろ、エランは根っこの届かない所で何やら考え込んで戦線離脱しているし、フェールはシロロを抱いて二階部分と言える足場に逃げ込んでいるし、あ、ティターヌは既に温室の戸口付近に逃げ込んでいる!
確かにそこは根っこが襲えない場所だが、君のガトリングが火を噴いたら俺も木と一緒に穴だらけになるねと言ってやりたい場所だ。
「生を持たぬ者は憐れなり、心を持たぬ者は哀れなり。」
俺は呪術解除の詠唱にエランを見返し、彼が離れていたのはこのためだったのかと納得していた。
ドリアードが精霊が入り込んだ木でしかない、という事に俺よりも早く気が付いていたのだろう。
「生きとし生けるものの理を失ったものは救い無き絶望である。土に立ち返れ!」
エランが自分の詠唱に連動するようにして右手をあげると、ドリアードは更なる変化を遂げてしまった。
すなわち、はじめてぎええええええええいと悲鳴を上げたのである。
その悲鳴は俺達の鼓膜をつんざくほどであり、俺達は鼓膜が破れないように一斉に耳を両手で塞いだ。




