ドリアードと内緒ごと
「ダグド様、なんだか肩が軽くなりましたが、俺の肩はどうなってますか?」
俺がアルバートルを見返すと、なんと、彼の右肩から葉っぱと花がほろほろと散っていくところだった。
「ああ、花が枯れて落ちちゃった。で、根っこだけ残って、いや、この根っこは君の肩の怪我を塞いでいたんだね。今も傷口を押さえてくれているよ。」
「そうですか。リリアナは凄いな。俺は確かに肩に大穴が開いて死んだと思いましたよ。ところが、彼女が俺の肩を圧迫してきたと思ったら、すうっとね、痛みが抜けましたからどうしたのかなって。あとから間抜けな花が咲いているって仲間に笑われて死にたくなりましたけどね。」
彼は右肩を軽く回して見せて、しかし、顔を直ぐに痛そうにしかめた。
「花が無くなった時の方が痛いです。痛みが全く無かったのは魔法の効果ですね。彼女は何者ですか。」
「うん?女神様。ええと、リリアナは未来と過去と現在を司る女神の一人かな。彼女を俺の所に連れてきた騎士はそう言っていた。彼女が子供を産めばそれが未来となり、彼女が現在となり、その子供が子供を産むと彼女が過去になる。運命を司る女神様だね。」
「ハハハ、素晴らしい。そんな女神さまを俺にくださるので?」
「まあ、本人は眉唾よ、と笑い飛ばすけどね。彼女は植物の世話が上手で昔は野菜工場の責任者だったんだよ。」
「で、過去形なのは今の責任者が別人だと言う事ですね。」
俺は自分の右手を自分の額に強く打ち付けた。
「ああ。シェーラか。シェーラがカイユーを庇っているなら、カイユーは閉鎖した工場じゃ無くて稼働中の工場の方だ。医務室と宿直室のある第一工場の方だね。すまない、すぐに皆を呼び戻して……。」
「必要ないですよ。あいつらは確実に解った上で第二工場に突っ込んでいるだけですから。ドリアードと戦える機会はそうそう無いですからね。」
「そうなの?わかっていたの?」
「まあ、奴らは、ですね。俺は何となく、ですね。シロロ様が言う事を聞くのはあなたかノーラだけですから。彼が消えたのなら、ノーラがシロロ様をカイユーの元に行かせたのか、あなたを煙に巻くように頼んだだけなのか。」
「どうして?」
「どうしてわからないのですか。カイユーが俺を撃った銃を彼に手渡したのが多分シェーラですよ。ノーラはカイユーが銃を呼び出せなくなったと泣いても絶対に彼に銃など手渡さない。頑張れば持てるようになるわよって鈍感な塩対応は確実です。そして、全貌があなたに知れたらあの可哀想な女性がここにいられなくなると、俺の仲間もノーラも考えたのでしょうよ。」
「ええ、どうして!だってさ、俺は君とフェールに相談したよね。外歩きに出掛けたカイユーの持ち物を洗いざらい出させなくていいのって。」
包帯男は目が見えていないが俺を真っ直ぐに見ているように顔を正面向けて黙り込み、それから、俺に怒鳴った。
「銃を持ってんだったら言ってくださいよ!」
「君の百鬼眼システムはどうなってんのよって、ガタガタだったもんな、君は。で、フェールはどうして銃には無頓着だったのか。」
「あれは照明弾銃でしたから、常識的に考えて見逃したのでしょう。あんなもんを俺に平気で撃ってきやがって、あの野郎は。」
アルバートルは昨夜の仕打ちが相当腹に据えかねていたようで、いきり立ったそのまま丹前に右腕を通して着直すと、俺に偉そうに右手を差し出した。
「何?」
「すいません。俺は剣を持ってきていませんので呼び出して貰えますか?俺はこれから馬鹿を迎えに行きます。第一工場も壊れるかもしれませんがいいですよね。俺達にはその価値がある。そうでしょう。」
「ざけんな、馬鹿。」
俺は彼に日本刀風のスチール製の剣を手渡し、彼が侍のように帯にその剣を差す姿を眺めながら、包帯のせいで格好良さが台無しだなと笑ってやった。
「この服を頂けるなら、怪我が治った時に剣舞を披露してあげますよ。」
「気に入ったんだ。」
「ええ。部下が全員格好がいい服だと羨ましがっていましたからね。そういうものは団長権限で全部俺のものです。」
「ハハハ、完全復活な君へあげるよ。君にはその価値がある。」
丹前姿の彼は侍のように深々と俺に頭を下げ、そして、目が見えないのにかかわらず風来坊のように居間を颯爽と去っていった。
そこで俺は今まで音信不通だった悪ガキに呟いてみた。
「ドリアード戦に君も参加してみたら?」
俺の頭の中でうきゃあといつもの喜びの声が上がり、俺の視界は霧が晴れた。
「全く、ふざけやがって。」
俺はアルバートルが座っていた椅子に座ると、彼等がほったらかして行ったホワイトボードに第二工場の現在の状況を映し出した。
人の手が入らないためにジャングルのような様相となっている温室の中で、大きな動く木に対して竜騎士達が独楽鼠のように次々と襲いかかっていた。
「ドリアードを排除出来たら第二工場も稼働できるし、彼等には褒美だな。」
第一工場の映像はいらない。
俺が知らないを通して彼らに解決させてやる。
カイユーとアルバートルの手足が一・二本もげても構わない。
ダグド領はそんな兵士も受け入れてきた場所なのだから。
「全く。誰かの幸せのために頑張るのはいいけれどさ、自分が力尽きて死んでしまったらどうするんだよ。自己満足の幸せの王子に使われて死んじゃう可哀想なツバメになっちゃう気かよ。」




