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どうして君はそこにいる

 俺の領地には電気を利用した無機野菜工場が三棟建っている。

 高地で寒冷野菜しか取れないのならば、やはり食料は外から得るしかなく、自給自足に拘る俺は温室を作ってしまえば良いと実行したまでの話である。


 ところが、そこがダグド領をシルク以外で稼げる金の卵を産む鶏となった。


 俺が前世で食べていたような温室苺や温室みかん、そしてレタスなどの葉物野菜までも、冬季になるとこの世界で手に入らないからと金貨に変わるのだ。

 さらに、新鮮な野菜が毎日食べられる事で領民の健康も維持できる。


 そんな素晴らしい野菜工場の一つが休止しているのには訳がある

 俺の嗜好品への飽くなき探求心が不幸を招いたのだ。


 この世界は中世のヨーロッパに酷似した風土や風俗でもあるのだが、それに準ずるためなのか中世のヨーロッパには存在しなかったカカオ豆やコーヒー豆、そして、トマトなどの新大陸産のものが一切手に入らないのである。


 ジャガイモが存在していたのは、この世界での天の助けだろう。

 ゲーム設定した俺と友人が抜けていて良かった、そのぐらいのジャガイモの存在である。


 そしてジャガイモがあるのならば、新大陸さんの他の物もあるのではないか?


 ほら、蚕蛾がこの領地になぜか繁殖していたじゃないか。

 ということで、俺は目新しい木や植物を見つけると野菜工場の片隅で育てる事にしている。


 そして、そんな俺の努力や探求心をあざ笑う様に、第二工場では育ててはいけない植物が育って手に負えない状況になっている。


 ここが魔法世界であった事を俺は完全に失念していたのだ。


 最初は可愛らしい白い花を咲かせただけの艶やかな葉を持つ小型の木でしかなかった。

 それが真っ赤な実を付けた頃には、俺はそれがコーヒの木だったに違いないと歓喜したのだが、それはよっこいしょと土から這い出るや勝手に野菜工場に住み着くふざけた存在となったのである。


 よって、現在第二野菜工場は、意志を持った木が徘徊するというとっても危険な区画となっている。


 俺はそいつを何とかしないといけないと努力はした。


 温度を下げたり、水を止めたり、植物には害となる行為をしたのであるが、環境が悪くなるや木は枯れるどころか工場から出て来ようとした。

 俺はそいつが出て来ないように、閉鎖させた工場を稼働するしかなかった。


 よって、環境整備された第二工場では、変な木どころかそこでかって育てていた果物や野菜なども勝手に繁殖している状況となっている。

 アルバートル達が食事と寝床を強調したように、それならばそこは温かく食べ物にも困らない場所でしかないであろう。


 歩く木とお友達になれれば。


「ああ、知らなかった。ダグド領にそんなメルヘンな危険な場所があったとは。俺は姐さんに騙された。」


 全員に渡したインカムは静かだったが、野菜工場に侵入した彼らに対して俺が彼らに一応の注意喚起の簡単な説明をした途端に、フェールがわかりやすく泣き言をぼやいた。


「フェール。この工場の存在はノーラに聞いていたのか?」


「いえ。リリアナさん。カイユーは俺の弟分ですので、カイユーとくっついた時点で俺のシステムではノーラは妹になります。」


「いや、弟子入りは君の方が後なんだから君が弟分じゃないか?」


「ダグド様。その弟子入りって物言いは止めてください。それから、フェールがリリアナに姐さんと呼びかけるのは当たり前ですよ。彼は彼女の胸元に尊敬の念をひたすら送っていましたから。」


 俺と一緒に対策本部に残った怪我以外は健康な男子が、ガキなフェールはおっぱいが好きなのだと偉そうに続け、俺の耳はフェールの騒ぐ声とアルバートルの部下達の厭らしい嘲笑のさざ波で物凄く煩くなった。


「……まあ、俺もエレノーラのお陰でおっぱい星人になる気持ちが理解できるからいいけどね。」


 リリアナを抱き締めて気恥ずかしくなったのは、エレノーラのおっぱいが思い出されてしまったところもある。


「やめてください。ダグド様が俺の妹の胸に顔を埋める想像をしてしまったじゃないですか!」


「俺の女房なんだから何をしても良いじゃない。」


「はっ、あんなにも初夜ってどうするのって不安がっていた癖に。」


「煩いよ。このふらふら団長が!」


 俺はアルバートルの座る椅子の足を蹴っていた。

 怪我人だろうが構うものか。


「ハハハ。あなたもようやくいつもに戻りましたね。俺を平気で蹴っている。」


「ハハハ。確かに。俺も君があってこそなのかな。」


「やめてくださいよ。」


「ちょっと、ダグド様!団長も!ハートフルは後にして下さい。あなたと団長の目が使えないならちょっとはこっちに集中してくださいよ。で、この木何の木はどんな攻撃を仕掛けてくるのですか?」


「え、木だもの。普通に幹で攻撃。殴られたら頭蓋骨骨折くらいはいくだろうから、全員警戒。」


「って、だからもう目の前にいるんですって!!」


 フェールの大声には銃撃の音が重なり、俺は彼等がこの木なんの木とインカミングしてしまったのだと、現状を把握する手だてがインカムしかない現状に舌打ちをするしかなかった。


 こんな化け物を育ててしまってごめんなさいと、本当は彼等に謝るべきなのだろうけど。



2022/11/3

お読みいただきありがとうございます。

ダグド世界の設定、ジャガイモがこの世界には無い→ある、に修正しました。

ノーラさんの話の方での、すり合わせというか、あっちを変えられないので。

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