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カイユー対策本部

 とりあえずカイユーの捜索と捕獲のために本部を迎賓館に立ち上げ、巻き添えで大怪我をしないようにと領民には戒厳令を布いた。


「すいません、ダグド様。俺はカイユーを殺せなかった。」


 包帯で両目どころか口だけ出して顔じゅうぐるぐる巻きにされた男が、俺に重々しく頭を下げた。

 彼は包帯や怪我で普通の服が着れないからと、俺の丹前を羽織っている。

 右肩にも彼は銃弾を受けており、そのために彼は右肩は袖を通さずに着ているので刺青を見せる遠山の金さんの状態だ。

 しかし、その格好によって怪我の状況が剥き出しで、俺は右肩の方が両目の怪我よりも痛々しいと感じるばかりだ。


「平気。殺していたら俺が君を殺していたから良いんだよ。いや、君が自殺していただろうね。だから構わない。それよりも互いに無傷でカイユーを捕獲できる方法を考えよう。どうしてシロロが味方に付いているのかわからないけれどね。」


「誰も死なないようにとの配慮でしょう。俺はこの右肩がこのままであるなら今すぐにでも死にたい気持ちですけれど。」


 俺は彼の怪我というか銃撃された肩を見返したが、そこには葉や茎の様子はタンポポみたいだが花弁が赤いシロツメクサみたいというものがヘロヘロと揺れているのである。

 服に隠されると服を破っても出てくるという嫌な植物で、よってアルバートルは右肩を出した形で丹前を羽織るしかないのだ。


「い、痛く無いの、かな。」


「心がとっても痛いです。」


 彼は黄昏ているような感じで答え、彼の右肩の赤い花はそよいだ。


 俺の肩はポンと叩かれ、振り向けばイヴォアールがこの患者には先が無いと告白する医師のように首を振っていた。


「えっと、一生このままなのかな。」

「俺どころか、メガヒールを使えるフェールがさじを投げました。」

「うわ、可哀想なアルバートル。」


 がつっ。


 大きな音がしたと思えば、大怪我人のアルバートルが立ち上がって自分の座っていた椅子を大きく蹴っていた。

 しかし、アルバートルの動向に慣れている部下達は何の感慨も持たないようで、彼を宥めようとするものは無く、それどころか彼は自分が転がした椅子を元通りにしようと盲目のまま頑張り始めた。


「ええと、あ、アルバートル君?」


「はい!ダグド様、団長はいいからこちらを!」


 君は本気で性格悪いんだねという風に俺に感じさせた物言いをしながら、俺の注意を引くようにホワイトボードを叩いたのはエランだ。

 ホワイトボードには誰が書いたのか知らないが、ダグド領内の地図が漫画的にデフォルメされていたが正確に書き込まれていた。


「そろそろ、注目してください!カイユーが逃げこんだと思われる場所を俺達が適当に考えてみました。」


「適当って、適当なんだ。」


「仕方がないですよ。俺達こそダグド領の全体像を知らないのですから。俺達が知っている事だけで考えるしかないなら、適当、でしょう。」

「ああ、畜生。俺が悪かったよ。まず城はいない。地図の城にはバッテンだ。」


 きゅっきゅと音をさせて、エランはホワイトボード専用ペンで城にバッテン印を書いた。

 ホワイトボードどころかペンという中世には無い異物を、こんなにあっさりと使いこなせる彼らの順応性の高さに俺は少し引いていた。

 こんなものを作り出していた俺も俺だが。

 だが、領民全員でのビンゴ大会にはホワイトボードは必需品なのだ。


「城の裏側がこんな山林になっているとは知りませんでしたよ。ここは荒地の山の天辺だったはずですよね。」


「天辺だけどさぁ、噴火して崩れた岩肌に城が蓋のように建てられているだけだもの。マグマが舐めなかった所は普通に緑豊かな山のままは当たり前でしょう。山林の下には広大な農地も広がっている。エレノーラに電気自動車が必要なのは、その農地で倒れた人がいないか見回りをしているからだね。うちは老人ばかりだから。うん、適当に考えなくても身を隠すこと考えたら、カイユーは山、かな。じゃあ、君達は山狩りか。」


「山にバッテン印だ。」


 包帯団長の言葉にエランは山に大きくバッテン印を書いた。


 つまり、俺の城部分だろう小さなバッテンに重なるようにしての大きなバツであり、なんだか俺の存在に大きくバッテンされているようで少し悲しくなった。


「ちょっと待て。普通は山だろ。」


 自分が蹴って転がした椅子を元通りにしたばかりか、そこにいつの間にか座り直して足迄組んで偉そうにしている男は、腕まで組んで俺に対して顎をあげた。


「俺達が来ると踏んでいる奴によって、山は奴の仕掛けで一杯だ。俺達がそこに行くわけ無いでしょう。」


「そこは偉そうに言う所か?ええと、君が嫌がるなんてカイユーは凄いトラップを仕掛けられるんだね。」


「あ、仕掛けは俺が仕込みました。」

 とっても静かで存在までも時々忘れられてしまうティターヌが右手を軽く上げて発言し、俺はキラキラ光っている大柄の美男子なのに存在を隠せる男のトラップというものを想像してぞっとするしかなかった。


「わかった。山は無し。」


「的確な判断です。カイユーは俺が銃殺予定の三人の男を勝手に追跡して殺して来たこともありますからね。山に入れば各個撃破されるだけです。」

「いや、だからさ、そこは偉そうに言う所か?」


 アルバートルはなんだか元に戻ってもいるようなのだが、確実にカイユーよりも弱いと公言しているようでもあって、実は彼は完全に壊れているのかと俺はかなり彼が心配になってもいる。

 そこでカイユーが殺したらしいアルバートルの獲物について尋ねることで、俺は自分の身の内に湧き出てきた不安を誤魔化そうと考えた。


「ええと、どうして彼が君の代りに勝手に?」

 団長の代りに答えたのはイヴォアールだった。

「団長が教会本部に呼ばれている間に奴らが営倉から逃げたからですよ。」

 俺は包帯男を見返した。

 彼は目が見えなくとも俺の視線を感じたかふいっと顔を背けて、俺は彼が教会に呼ばれたのはただ呼ばれたのでは無いのだと理解した。


「君達はアルバートルの身柄を返してもらうためにその男三人を放免する必要があって、アルバートルの解放後にカイユーが団長様の意向を汲んで三人の始末をつけたって話しか?」


「その通りです。カイユーは団長の視線だけで勝手に動きます。あれはあの子がまだ十三になったばかりの頃だった。全く。」


 イヴォアールは俺のエレノーラが俺を責める時と同じ視線を自分の団長にちらりと向けてから、俺には友好的に微笑んだ。


「わかりましたか?カイユーは団長の最高の兵士なんですよ。育てた本人がこんなにボロボロにされるくらいにね。」


「うるせえよ!お前があのガキをしっかり育てろって言ったんじゃねぇか!」

「人間兵器に育てろって誰が言いました!」


 偉そうに腕を組んで吼える包帯男と、それに向かい合わせで本気で怒鳴る大男という絵面に、俺は取りあえず目が見える元気な方の肩を押さえた。


「はいはい。わかった。そこはいいから、で、君達はどう動くの?」


「はい!注目してください!」

 エランは再び大声を出して俺達の注意を引くと、にやりと笑ってホワイトボードをくるっと回転させた。


 回転して新しい面となったホワイトボードには新しい図形が描き込まれていて、それはとても嫌だなと俺は直ちに却下するしかなかった。


「ふざけんな!俺の城には君達を食わしてくれる蚕さんやオートメーションの紡績機械や、壊れたらすぐに終了の発電機があるの!俺の城でのサバイバルゲームは認められません!」


 再びエランはニヤリと笑うと、ホワイトボードをぐるりと回した。

 俺は大きく舌打ちをするしかない。


「わかったよ。現在休止中の野菜工場二号棟の使用を許可する。どうやってカイユーをそこに誘導する気か知らないけどね。」


「そこにいるのだから誘導は必要ありません。」


 くるくると回されるホワイトボードに絵を描いていた功労者だったらしき男が、ひょいとホワイトボードの下から顔を出した。

 何本ものペンを子供のように両手に握っている男はやり切った顔をしており、彼等が俺の大事な工場の一つを破壊するかもしれない許可を得るために大掛かりなお遊びを俺に仕掛けていただけだったらしいと俺は理解するしかなかった。


「お前ら、最初からカイユーがどこに逃げ込んだのか知っていたな。」


「安全な寝床と飯が手に入る場所に逃げ込むのは、兵士の初歩です。雪山になんて籠りません。あそこはきっとトラップだけでしょうね。」

「そうかな、アルバートル。俺はシロロにカマクラという遊びも教えた覚えもするよ。一応は雪山も覗いてみたらどうかな?」


 俺の竜騎士達はとても寒がりなことを俺は知っている。

 彼等は凄く嫌そうに一斉に舌打ちの音を立てた。

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