俺と乙女と騎士と……③
少しおかしいなと彼らが見上げる方向を見ると、見張り台にはエレノーラを筆頭に俺の乙女軍団が、憎いはずの俺の服に着替えた上で槍を持って俺を睨んでいる、という一時間前から代わり映えのしない光景が広がっていたが、そこに真っ赤な異物、俺と世界を滅ぼす者が紛れ込んでいた事を知った。
「あ、シロロを忘れていた。」
俺の作ったピンク色のトーブに真っ赤なマントを羽織った姿は、可愛いと俺でも思う程の小さなお姫様でしかなかった。
ついでに彼は、偉そうに両手を腰に当てて二本足で踏ん張っているという、あざとさまでも感じるポージングまでしているのだ。
そんなご様子の見張り台にいる生きているフィギュア人形は、俺と目線が合うや俺に向かって大声を張り上げた。
「お昼ご飯の時間でーす!」
「お前はさっき朝ご飯を喰ったばかりだろうが!」
満腹中枢の壊れた生き物に対して、俺は普通に怒鳴り返していた。
だが、騎士団達は騒めきたち、俺はそういえばこの男達が喚いていたシロロに殺された司祭がいた事を思い出した。
「あの、あの方は?」
エランは美しい瞳からサーチライトが出るような勢いで見張り台を睨みつけ、俺に視線を転じることも無く尋ねて来た。
一時間で馴染んでしまった彼らが、シロロの殺人の咎を正しに来た騎士だったのだと俺は認めるしかなく、俺はこの楽しい男達の敵でしかないのだと覚悟を決めて立ち上がった。
いいよ、敵になろう。
どうせ俺はアルバートルとエレノーラの幸せを壊した存在だ。
「あれは俺の子供だ。お前らの言っていた、教会に紛れ込ませていた悪鬼だよ。」
すると、アハハハハと、フェールが大げさな笑い声をあげた。
少々鬼気迫る、やけっぱちにも聞こえる笑いだ。
彼らも覚悟を決めたのだと、俺は彼らを街に送る呪文を唱えようと右手を翳し。
「あーあ。あの変態が死んだのはそういう事かぁ!」
え?
俺はフェールが何を言い出したのかと、統括者であるアルバートルを見返した。
彼は部下の台詞にうんうんと同調しており、気さくそうに部下に言い返した。
「あんなに可愛いんじゃあ、あの変態は止まらないよね。」
「おい、お前ら。いいのか、俺とあのちび子はお前らの大事な司祭を滅ぼしたのだろう?」
六人の男達は一斉にうーんと首を傾け、同時に元に戻すと、同時ににやっと悪戯そうな笑顔になった。
「あいつ、変態だし、いいかな。」
全員で斉唱しやがった。
ゲーム画面でキャラクターが同じ動きに同じセリフを同時に喋るという場面はよくあるが、それはビット絵という可愛らしさがあってこそだと、ごつい男六人という実写でやられて精神的に少しきた俺は少しいらっとしながら考えた。
「で、どうするよ、お前らは。俺を討伐しないのなら、教会に帰れないだろ。」
にやり、とアルバートルは口角をあげた。
「妹もいますし、ここに住みますよ。竜騎士、っていうのも格好がいいじゃないですか。」
俺はゲームの世界で強いキャラクターが簡単にパーティに加わることに関して何の感慨も持っていなかったが、実際に置いては相手に物凄い不信感しか抱かないものなんだと身をもって知った。
絶対に俺よりも強いキャラがいたらこいつ等は寝返るんじゃないだろうか、そんな不信感だ。




