発端②
シロロに反応したのは、勇者、ではなく、彼の隣にいた幼い姿の神官だった。
神官の金糸銀糸の刺繍のあるローブを羽織っている彼は、手には錫杖という立派ないで立ちだが、おのれの背よりも大きな錫杖を持っている所で十歳にも満たない子供にしか見えないあどけなさだ。
しかし、白い肌に銀髪と黒い瞳を持つこの子供の顔は通常よりも整っていると言ってもよいが、その両耳は大きくはないが先が少しだけ尖っており、通常の人間の持つ耳の形態では無い。
耳の形から長寿のエルフと人間の混血なのだと想定すれば、そう、俺がこの世界で十五年生きた経験から計算すれば、絶対に、彼は子供の姿でも二十は超えているに違いない。
「やっぱり、僕のお父さんを知っているのだね!」
ハーフエルフのシロロの話し方はなぜか外見通りの子供じみていて、そんな彼に俺は近所の小学生に対するように返してしまっていた。
「え、君のお父さん何て俺が知るわけないでしょ。」
するとシロロは両目にさっと傷ついた光を宿したようだったが、彼はたじろぎながらも歯を食いしばり、ぐいっと顎を上げた。
偉いぞ、まるで俺のシロロが餌を要求する時のようだ。
俺のシロロは四つん這いで、だが、彼はずいっと二本足を肩幅に広げて踏ん張り、なんとも偉そうな口調で俺に言い返してきたのである。
「お前の討伐に三十年前に参加していた!弓使いのシュローだ。」
「三十年前って、ちょっとまってよ、違うって。俺は今のところ十五歳じゃない?」
「え?」
「え?」
俺の一言で勇者達はなぜか騒めき、俺は彼等の反応に首を傾げながら自分の全身を見下ろした。