表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
199/335

自然に動く指先

 迎賓館に俺とシロロが向かってみれば、俺達よりも先に乙女隊が集合しており、彼女達はアルバートルを誑し込むための料理を製作していた。


「すごいな。君はやっぱりモテるね。」


 ふらふら団長は俺に両眉をあげて見せただけで居間を出ていき、俺は揶揄いがいのなくなったアルバートルのガタガタ具合を考えて肩を竦めると、担いできたモニターの設置を急いだ。


「大画面ですね。」


 俺が梱包を解いて出て来たモニターに、イヴォアールは驚きの声をあげた。

 感想が「大きい」だけで、モニターという存在に疑問を抱かなくなった中世人も嫌だな。


「まあね。今回のは全員で遊べるように工夫してみた。単純にリズムを踏むだけのゲームなんだけどね。」

「コントローラを持てない人間も見ながら遊べると。」

「そう。プレイヤーの集中している後ろで騒いで邪魔してあげて。」


 俺は中世人どころか部隊一番の堅物のはずのイヴォアールがコントローラーという言葉をすんなりと使ったことに衝撃を受けながら、どうして人間は堕落するのが早いのだろうと堕落させた張本人でありながら空しく考えた。


「イーヴ!あたし達は屋敷で二人で過ごしましょうって、あ。」


 居間に飛び込んできたモニークという名の赤毛のふわふわさんは、俺の姿を認めるや髪の毛よりも真っ赤に染まり、イヴォアールは顔に手を当ててがっくりと頭を下げた。


「あれ、君達にはノーラとカイユーを頼んだのだけどな。」

「あ、ああの。ごめんなさい。でも、ノーラが。」

「ノーラが?」

「あの。ノーラが二人で行ってきなさいって。せっかく城の台所には誰もいないのだから、二人でご飯作ったりして楽しんでおいでって。それで、ええと、確かにあたし達がいない方がノーラはカイユーとゆっくりできるかなって。」

「わかった。イーヴ君。俺は君を信じているからね。さぁ、行った。」


 イヴォアールは俺に初めて抱きついてきたばかりか、俺の頬に軽くキスをするなんて行動までも取った。

 そしてその一連の行動を自分でしたにもかかわらず、なぜか彼は自分の行為に対してとっても恥ずかしそうに真っ赤になり、それから彼と同じように真っ赤に顔を染めている自分の恋人の手を引いて俺の前から逃げて行った。

 俺は騒々しい恋人達が消えた戸口を眺めながら、俺がどうしてイヴォアールを虐め続けていたのか納得していた。


「俺はあいつをどう弄っていいかわからなかったからな。よし。あいつもカイユー風に可愛がるか。リアクションがいかにも西洋人的でウザいが、あの堅物が少し可愛らしかったからな。」


 がたっと上階で人の動く音がして、俺は天井を見上げた。

 カイユーは上階の一番大きな部屋にいる。

 ノーラから隠す必要もなくなったからとカイユーの行動の制限を解いたのだが、彼は領内をふらつきながら領内に余計なものを仕掛けたり、弄ぶ必要のないものを弄ったりしていた。

 カイユーが弄ったものについては俺も感知できるから良いとして、彼が盗んだものについては俺もアルバートルも知らない振りをするべきか洗いざらい出させるべきなのか判断がつかず、とりあえずフェールがカイユーの所に行っている。


 シロロがフェールを追いかけたのは笑えたが、シロロが一番大好きなエランはゲームをしてくれないようで、シロロはゲームに関してはフェールを一番の遊び友達に認定しているようなのだ。


「心配する必要は無いですよ。」


「ああ、フェール。カイユーはどうして?」


 戸口に立っていたフェールはにやっと笑うと、自分の右手を上げて指先をイソギンチャクのように動かして俺に見せた。

 動きを止めた彼の指先には迎賓館のどこかにあっただろう、飾りランプのクリスタルの小さな飾りが煌いていた。


「ただの習慣ですよ。俺達は泥棒だって知っていました?初めての場所で武器のない状態ですと、自然と指が探ってしまうんですよ。逃げ道の確保や武器となりそうな小物の収集をね。」


「そうか。知らなかったよ。ありがとう。だが、それを一番知っているアルバートルがどうして動揺していたのか。」


「だって、カイユーはここから逃げる算段を常にしているって事じゃないですか。あいつはここを出ていきたい。出ていけないならどうしよう。」


 俺は大きく溜息をつくしかなかった。


「フェール。ゲームはいつでもできる状態にしてある。シロロとカイユーが二階から降りてきたら二人を頼んでいいかな。俺はアルバートルともう少し話し合わないといけないみたいだ。」


「どうぞ。そうだ、ご存知でしたか?味方殺しのアルバートルと言いますけどね、彼の殺しは二種類あるんですよ。」


 フェールは俺に人差し指と中指を二本立てて見せつけ、俺は彼に左眉をあげて見せて彼に続きを促した。


「まず、団長の盾になって死んでいった仲間たち。」

 二本指を立てているフェールは、ニヤッと笑うと中指を折り込んだ。


「それから、くそやろう聖騎士に対する彼自身による粛正。」

 フェールは残った人差し指で銃の引き金を引いた。


「裏切り者や守るべきものを壊そうとした奴は、団長自ら手を下すんです。」


「それこそ早く教えろ!」


 俺は居間を飛び出していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ