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賽の河原

 親よりも早く死んだ子は、地獄の河原で石を積むのだそうだ。

 それも歌を歌いながら。


 俺は久しぶりに戻った城で、俺の子供のシロロが壊れかけていた事を知った。


 彼はカーテンを閉め切った薄暗い自室に一人ぼっちで閉じこもっており、俺が彼の部屋に入っても俺に振り向く事も無かった。

 彼は壁際に設置した大きなモニターの前にちょこんと座っているのだが、モニターは砂嵐しか映っておらず、そして彼こそゲームをしているどころか必死に何かを積み重ねる作業をしているのである。


 それも抑揚のない歌を歌いながら。


「デグディグデグデイグデグディグデグデイグデグディグデグデイグデグディグデグデイグ。」


 いや、歌ではなくただの呪文か?


「シ、シロロちゃん。ど、どうしたのかな?」


 シロロはゆっくりと振り向いたが、目元はずっと泣いていた上にこすっていたように赤く爛れており、ティラノザウルスのように両手を胸元に浮かせているが、その指先は真っ赤に染まっているという痛々しさだ。


「どうしたの!君はどうしちゃったの!」


 俺はシロロの変異に驚いたそのまま彼を抱き締め、そして、彼の説明を聞くまでもなく彼が壊れてしまっていた理由を知った。


「ああ、ゲーム機が壊れてしまったのか。」


 壊れたどころではなく粉砕されていたと言ってもよい。

 それを彼は一生懸命に一人で直そうと頑張っていたのだ。

 指先を染めている赤色は、破片で傷つけた切り傷によるものに違いない。


「せっかくダグド様が作ってくれた贈り物なのに。僕は魔王様なのに、なのに、これが何なのかわからない。わからなくてもっともっと壊してしまった。」


「俺をすぐに呼んでくれれば……、呼べなかったか。君は俺がカイユーの看病をしていたのは知っていたものね。俺自身色々と内にも籠って領内の様子を探ることも忘れていたね。ああ、エレノーラが俺を叱り飛ばすわけだよ。」


 エレノーラがとうとう堪忍袋の緒が切れて俺を怒鳴りに来たのは、シロロの事もあったからなのだろう。

 どうりで俺を車に乗せるどころか、テレポートで城にさっさと帰れと追い払った訳だ。

 俺はすまないという気持ちで、泣きすぎて顔が擦り切れている哀れな幼い子供の頭から頬にかけてゆっくりと撫であげた。

 すると、シロロはさらに泣き出した。


「壊しちゃった。僕はお父様の贈り物を壊しちゃった。ごめんなさい。ごめんなさい。嫌わないで。お願い。ぜったいに直すから。」


 俺は馬鹿野郎と、シロロを抱き直した。


「形のあるものは絶対に壊れるんだ。こんな玩具が壊れたぐらいでお前が壊れる方が俺はキツイぞ。よしよし、すぐに直してやる。それよりも、さあ、お前の怪我の手当てが先だ。ほらほら、泣きすぎて目尻が切れているじゃないか。ああ、顔がガサガサになった時はどうして直してあげればいいのかな。まず、お風呂に入って羊ミルクのクリームを塗りこんでしまおうか。」


 シロロは俺の胸元から顔を上げると、にこっと涙が残る痛々しい笑顔を見せた。


「ダグド様とお風呂は久しぶりです。」


「そうだね。今日はお風呂で泳ぎ回っても怒らないぞ!お前が笑顔になるなら何でも許してやる。」


 シロロは俺の首にぎゅうっとしがみ付いて、再びごめんなさいと囁いた。


「どうした?」


「にろにろが壊したの。だから、僕はお仕置きをしてしまいました。ダグド様がこんなに優しいなら、僕もあの子たちに優しくしてやれば良かった。」


 俺はシロロを抱いたままにろにろ姉妹がいるはずの生け簀のある城の台所に瞬間移動をし、そして遅かったと、生け簀の水が真っ赤に染まっている事を突きつけられてがっくりと両膝を付いた。

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