俺と乙女と騎士と……②
「フェール。お前はもう少し話を練ってこい。せっかく俺達に罪悪感を抱き始めたダグド様の気がそぞろになっちまったじゃねぇか!」
フェールが金属疲労した鉄みたいにぽっきんと折れたが、やっぱりアルバートル以外は嘘話なんだな、この野郎ども!
「だんちょう!じゃあ、俺がもっと凄い話を作ります!」
子供のように右手を上げて声をあげた男は、フェールと同じぐらいか少し年上そうに見えた。
小石という名の彼は、下っ端二号か?
誰よりも色白で、実は俺の乙女隊の誰よりも肌がきれいだと思ってしまった彼は、薄茶色の瞳に毛先が跳ねている薄茶色の髪をマッシュな短髪にしている。
身長はアルバートルと同じぐらいの長身だが、誰よりも細い肢体であるからか少年っぽさを感じてしまう青年だ。
「うるせぇよ、カイユー。台無しにお前こそするなよ。石をぶつけるぞ!」
アルバートルに怒鳴られて、カイユーは見るからにしゅんと小さくなり、そんな彼の背中の布を引っ張ってカイユーを後ろに下げたのはフェールだった。
「ほらカイユー、少し下がっていようか。」
ああ、お兄ちゃんだ。
フェールはお兄ちゃんみたいだ。
するとカイユーが一番の下っ端か。
俺はもうどうでもよくなってきており、俺以外のアルバートル隊もそんな感じになっていたが、空気を読まない奴はこの世にごまんといる。
焦げ茶色のチョコレートみたいな髪色をした男が、俺の目の前に膝をついて俺を真っ直ぐに見て来たのだ。
「俺はエランと申します。」
「うおっ。」
俺の口から思わず声が出てしまった。
貴族的な整った顔立ちは素晴らしい事この上ないが、彼の瞳は青みがかった緑色の瞳、いや、緑色がかった青色の瞳と言うべきか、とにかく宝石のような瞳を持った男が俺を真剣に見つめてきたのである。
もう、胸がどきどきしそうよ。
「俺が信者から聞いていた生贄話をダグド様にいたします。」
アルバートル隊の誰よりも俺を真っ直ぐに見つめて来た男は、俺の最初の突っ込みを受けることになった。
「お題は身の上話だろうが!」
「あ。それもそうでしたね。」
エランは俺の胸の鼓動を早める様な笑顔を見せ、彼も名前通りなのだと認めるしかなかった。
加工性と耐久性と実用性が高い青銅は、過去には美金と呼ばれていたのである。
「ああ、もういいよ。それでさ、俺は城から出ないのに、どうして生贄が必要だったの?まぁ、十五年前の俺については俺もよく覚えていないけど。」
イヴォアールはグレーの瞳を煌かせながらにやっと俺に笑いかけて、象牙のような真っ白な歯を見せた。
「あなたに生贄を捧げないと村が襲われる、という伝承を守って、です。」
「あら。迷惑な話だね。まぁ、三十年前には討伐隊も出されていたものねぇ。完全な竜だった昔の俺は、かなり悪いことをしていたのかな。」
「あ、三十年前の討伐隊は予言によるもの、です。」
騎士団では一番の年下らしいカイユーが嬉しそうに口を挟んだ。
「そうなの?」
「はいはい。あなた様を殺さねば世界が滅びるという予言です。」
「ありゃ。俺を殺すと世界が滅びるのにねぇ。」
ええぇ!
男達は一斉に同じ驚きの声をあげ、そのまま立ち上がると全員同じようにして俺を上から見下ろした。
「ど、どういうことです。」
アルバートルは立ったままだと礼を欠くと考えたのかすぐに座り直して俺を見つめ直したが、おや、後の者は団長の後に続くどころか見張り台を見上げて呆けた姿となってしまっているじゃないか。