小石は勝手に転がる
俺の呼びかけに対し、俺に日常的に嫌がらせされている筈のイヴォアールは快く応答した。
俺は日常的に優遇している筈のアルバートルを見返し、彼のそのすさまじくも見惚れる程の剣撃に、まあいいか、と思い直した。
あいつがろくでなしなのは十分承知しているじゃないか、と。
そして約束の数分後には、空を見上げれば翼を生やした竜騎士が次々と舞い降りてくるという情景だ。
何のことは無い。
彼等が自走式の翼であるルシファーを背負っての戦闘準備が整ったところで、広場の上空に俺が瞬間移動で彼等を運んだというだけだ。
移動時間の短縮と、敵に囲まれたそこに移動させるよりも上空から戦闘状況を確認しつつの方が良いだろうとの判断だが、俺は失敗したようだ。
カイユーが広場に降りずに別の場所へと移動してしまったのである。
「あっちゃ。どうしたあいつはって、ノーラか。全員を集めて一か所で簡易的竜騎士任命しちゃいたかったんだけどな。」
「すいません。落ち着いていたみたいなので連れて来てしまいましたが。」
イヴォアールは本当に申し訳ないという風な声を出し、どうしてこんな嫌な上司の俺にそこまで誠実でいられるのかと、これこそ嫌がらせかと思う程だ。
「うん。俺こそあいつを連れてきた張本人だからね、いいよ。はい、皆さん、戦闘に集中しつつ俺に注意。」
俺こそ戦場で剣を振るい始めた俺の騎士達に集中した。
「イヴォアール、エラン、ティターヌ、そして、フェール。君達を我が竜騎士として永劫に任命する。」
ぼうっと音がするほどに彼等は銀色の炎で燃え盛り、状況の意味が分からないエランとティターヌの動きが止まるかと思えば彼等は炎に巻かれた時でも動きを止めることなく亡霊を切り裂いていた。
「おや。」
「状況は把握しています。団長からの連絡もありますし。」
「畜生、あの野郎。イヴォアール、君はあんな適当な団長で苦労するね。とりあえずこれ以上の追加は無いはずだから、領地内の実体化した化け物の掃討を頼む。銃騎士は飛び道具禁止だ。領民への流れ弾が怖いからね。」
「領内での飛び道具はご法度。ここに俺達が来た時からの約束でしょう。大丈夫ですよ。」
「ええ。俺はガトリングを得るためにかなり剣の腕を鍛えてきましたので剣でも大丈夫です、了解です。」
エランとティターヌの頼もしいぐらいの真面目さに俺は心が洗われる様だ。
「ありがとう。じゃあ、俺は一抜けるから。イヴォアール、あとは頼むね。」
「かしこまりました。」
俺は大剣を振り回しながらも俺に慇懃さを失わないイヴォアールに苦笑して見せると、逃げちゃった小石を拾いに行かねばと踵を返した。
「待って!ちょっと待って!ダグド様!俺にも団長がやってもらった任命式がいいです!あとで絶対にやって下さい!」
フェールは団員の中でただ一人動きを止めて、剣を抱き締めて、それも涙目で俺に叫んでいた。
「やってやるからお前は剣を止めるな!シロロはおいで!君に頼みがある!」
「うきゃああ!」
シロロは物凄く嬉しそうな声を出した。
彼が人外な力を使って好き勝手して見せるのは、僕ってすごいでしょう、と自分を俺達に見せびらかせているだけなのだ。
だから僕は君達には大事だよね?
自慢籠のお菓子と一緒だ。
こんな素敵なお菓子を貰える僕は凄いでしょう。
君にもあげるよ、だから、僕と仲良くしてね。
そんな健気な子供を利用する俺は最低だなと自嘲すると、自分に向かって走って来たシロロを抱き上げた。
「さあ、お前の姉さんと兄さんの危機を救いに行こうか?」
俺の腕の中の彼は嬉しそうににっこりと微笑んで、大きなはさみを彼の頭上でがゃがしゃさせて見せた。
いいや、あの、何しに行くと思っているんだ?この子は。




