休戦と和解
「あなたは俺の国を取るつもりでしたか?」
「おここー。そんなわけはないじょ。わしも父親だぎゃ。そういうことぎゃ。」
「だからって俺の竜騎士に呪いをかけるとは。」
「カッカッカ。ダグド殿は力がお強すぎて見えるものが見えていないぎゃ。呪いは昔からあったじゃろ。彼らだって言っていた。靄を纏った老人を火刑に送ってきていた過去があったぎゃ、と。わしはその呪いの後押しをしただけぎゃ。死者達はずっと辛い辛いと煩かっただぎゃな。」
「ハハハハ。あなたは、俺達の会話を聞いていたと。なんと、全てお見通しだったと。あのシロロがいたというのに。」
アスランはクシャっと嬉しそうに顔を歪めた。
「わしらは光そのものなんじゃ。光がある場所ならばどこでも存在できる。まあ、生まれて五百年程度のあのぼんくらはそこまで到達できないだろうぎゃな。」
「――あなたはどのぐらいの。」
「年齢など聞く必要も無いじゃろ。わしはあと数年の命じゃ。すまんの。数百年ぶりに孫が見れるかもと焦ってしまったぎゃ。ああ、わしのやった事は自分で片付けるだぎゃ、そのことを伝えに来ただけじゃよ。ダグド様と一戦を交えるなどと、わしは全く考えておらん。」
アスランはそう言うや、くるっと身を翻して俺から背を向けた。
王の装束姿のアスランの背中を見つめながら、彼が死んだ時に着せられる装束のような気がして、俺は彼に尋ねていた。
「あなたはこの始末をどうつけるおつもりだったので?」
「――光は闇を飛ばす。」
「よくわかりました。あなたは家に帰って養子夫妻の新婚生活を邪魔をするくそ爺の仕事に戻って下さい。この領地で起きたことは、我が竜騎士である保安部隊の仕事です。呪い?そんなもの、どれだけ貼り付けられても対処できる奴らですからお気になさらず。」
アスランはひょいっと俺に振り向いた。
丸顔に真ん丸な驚いた眼を向けた彼の表情はいつもの彼でしかなく、彼は俺の親友で俺の失いたくない爺でしかないと俺に思わせた。
「ダグド、どの。わしのした事を許されると?」
「ええ。俺も娘の為にあなたの息子を弑しようと考えました。おあいこですよ。そして、あなたは俺の親友で、アールはあなたの息子で友好国の王様だ。俺は誰にも死んでほしくなく、そんな考えは甘ちゃんだと部下に罵られるほどのヨワヨワなんです。」
「カッカッカ。ヨワヨワなどと、ダグド殿は謙遜が過ぎる。では、このボケ爺の後始末、あなたにお任せいたしますじょよ。」
「任せてください。あなたはこの領地の大事な住人です。俺の世界からの一抜けは許しませんよ。」
アスランはカッカッカと大笑いをあげると、虫柱のように体を粉々にして、そしてその細かい虫のような光はさらっと消えた。
「わお、実体じゃ無かったか。あの老獪な爺め。死ぬ気も無かったかな。」
それでも明日もあの老人の笑顔が拝めると、俺の気持ちは弾んでいた。




