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黒い靄の妖怪と騎士

 俺の呼びかけにも、アルバートルは答えるどころか押し黙ったままである。

 俺はこんな彼が初めてだと、俺こそ不安に陥っていた。


「死んで体の無くなった人がうようよいるって言えばいいだけなのに。死んじゃっている人がダグド様の領地が羨ましいなあって、こんな天国に住めて憎らしいなあって黒い靄のお化けに次々成り代わっているってだけの話なのに。メンドクサイの!」


 沈黙の状況を破壊してくれたのは魔王様だった。


「あ、それだけ?ああ、じゃあ突風か何かで飛ばせるかな。それで、俺に何も言えないってどうしてなの。」


 アルバートルは顔を上げ、その覚悟を決めた表情で口を動かして――。


「アルバートル達が呼んでいるの。いっぱい殺してきていたでしょう。むかーし殺しちゃった人達が続々とやってきているの。」


「ああ。」


 両手で顔を覆ってしまった馬鹿野郎の肩を強く突くと、彼はころんと彼にしては珍しい転び方をした。


「あっつ。」


「この馬鹿たれ。それで、さんざん出ていきます系の前振りしていたのは、指揮官である君が出て行けばその黒い呪いも無くなるって思ったからか?いい、君は答えなくていい。シロロさんお願いします。」


「うん!僕がそのように呪いは固定できます。でも、今のところは領地でふらふらしているものは片付けなきゃいけません。実体化し始めているから。」


 俺はヘッドフォンを頭から外して放り投げると、よいしょと立ち上がった。


「わかった。アルバートル。これから領内黒靄妖怪退治の散歩に出るぞ!」


「ダグド様、ノーラは?」


「ほっとけ。あと一日くらいあいつだったら大丈夫だろ。いざとなったら君がノーラの腕を切り取ってくれるんだろ。」


 立ち上がっている俺とは対照的に、彼は立ち上がるどころか胡坐をかいて座り直し、そして、俺を見上げた。


「できません。俺はあいつを殺せません。」


「それじゃあ、当初の予定を君は実行しろ。これは俺の命令だ。だから君がこの領地を出ていくことは絶対に許さない。」


「ダグド様。他国の王様殺しは重罪ですよ。ここには彼の父、あなたの親友までもいる。彼をあなたは裏切る事になるのですよ。」


「友達と家族だったら家族を取るでしょう。そして君は俺の家族で親友だ。君はどう思っているか知らないが、俺は君を手放さない。」


 アルバートルは胡坐を止め、だが立ち上がるどころか騎士の礼の形の一つをとった。

 立膝で俺に頭を垂れるという格好だ。


「親友と言ったこれが返礼か。友人よりも部下でいたいと。」


「親友として俺に騎士の叙勲を下さい。俺はあなたの竜騎士を名乗っているが、あなたに任命されたことは無い。」


「君は最初から俺の騎士だったけどね。では、君の剣を。」


 アルバートルはそこで、あ、と言う顔をした。


「はは、君らしい。あの号令用の剣はそのまま祭祀用の剣でもあったのだね。だが、それは不要だって。あの剣は教会から貰ったものでしょう。さあ、君が鍛えた君の相棒という剣を俺に渡してくれ。」


 彼は彼の研磨によって仕上げられている、切れ味は魔物さえ切れそうなほどに良さそうだが不格好な剣を俺に手渡した。

 俺は彼の命綱で相棒だというその剣に彼のこれからの無事という念を込めると、彼の肩にその剣を当てた。


「われはアルバートルを我が竜騎士として永劫に任命する。」


 たったそれだけの行為でしかなかったが、アルバートルは銀色の炎のような光に全身が包まれた。

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