負の感情
ノーラとアールの二人の姿。
見ようによっては恋人同士か新婚夫婦にも見える姿を、ノーラの婚約者のカイユーに見せつける事になってしまったと俺は慌てた。
「うわ、やば。」
しかし、カイユーはとっても静かだった。
「……ノーラはこんな生活こそ似合う。一人で俺の帰りを待つなんて、寂しがり屋のノーラには可哀想だ。」
俺はだったら確実に君が戻って来ればいいじゃないかと言おうとしたが、俺よりもカイユーの事をよく知っている男が口を開いた。
「そうか。それじゃあ別れてこい。そうしてくれりゃあ、俺達のこの面倒も終わる。いや、これは面倒というか、俺が次の行動に出ていいかの確認だがね。」
「団長、確認って。」
「あいつがお前に操を立てるならね、俺は良くやったとあいつの右腕を呪印ごと切り落とす。そういう確認だ。」
カイユーはさあっと音が聞こえるぐらいに血の気を失わせると、監視小屋を飛び出して行ってしまった。
もちろん、俺はカイユーを魔法で捕まえ、見張り台の会議室にそのまま送り込んだ。
「アルバートル。面倒を掛けないでくれ。」
「あいつが乗り込めば、それでお終いじゃないですか。ノーラはね、王様のお妃様になった方がこの先は幸せなんじゃないですか?」
「いいや。ここにいた方が幸せだろ。俺がね。」
アルバートルは俺の返答に眉毛を上下させると、羨ましいねぇ、と呟いて監視作業に戻ってしまった。
俺は君にもそうだと言ってやるべきだろうと思ったが、散々に俺に内緒ごとを作っていた男には黙っている事にした。
「――俺達にはここにいて欲しいって言葉は無しですか?」
「ハハハ、聞いて来たか。君が言ったんじゃないか。言う必要のある事と、言わなくてもいい事があるって、さ。」
「俺が言ったのは知る必要がある事と無い事でしょう。あなたのお気持ちを知らなければ俺達のモチベーションは駄々下がりですよ。」
俺は笑いながらヘッドフォンを耳に当てると、アルバートルの背中をポンと叩いた。
「心がすっきりしなければ俺達だって黒い靄の化け物に喰われてしまいますよ。あれは人間の負の感情に棲まうものですから。」
俺はかなり驚いた顔をしていたはずだ。
本気で驚いていたのだから。




