子育ての落とし穴
「え、本気で嫌がらせじゃ無いの?」
アルバートルの怒りのオーラが怖ぇとびくびくしながら訪ねると、彼は怒りを放出するように大きく息を吐きだした後に、吐き捨てるようにして言い放った。
「いや、普通にあの女はセンスが無いだけですよ。あなただってシロロ様の服にノーラがした刺繍を見て知っているでしょうよ。」
「そうなんだけど。あれはシロロが物凄く気に入っているからね、あの子のオーダーだったのかなって。俺も最初はシロロが可哀想かなって思ってクローゼットの奥にあの服を片付けたのだけどね。あの子はあの服を見てはくすくす笑って喜んでいるからさ。」
「それじゃあ、妖精や魔物系はああいうのが好きなのでしょうかね。趣味悪いな。カイユーはまだ迷いと間違いがいっぱいの十代だしなぁ。」
俺はアルバートルが暗どころか明確にノーラを扱き下ろしているのはわかっていたが、敢えてそれに反発するよりも急に思いついた事を彼に尋ねていた。
「君はさ、フェールにはそこまでじゃないよね。あの子の方がカイユーよりも長いでしょう。まあ、一年ばかしだろうけどさ。」
フェールはカイユーの一つ年上なのだ。
「いえ、カイユーの方が長いですね。フェールは五年前に俺の部隊に入ってきた奴ですから。」
「うそ。だって、二人とも孤児だって、俺に。」
「孤児なのは本当ですよ。フェールは剣騎士養成学校出の奴ってだけです。」
「ああ、そうか。彼は教会の剣騎士だったものね。あの子は孤児でもエリートとしての養育を受けていたのか。では、彼は教会からの配属かな。」
アルバートルはふうっと吐息を吐いた。
「いいえ。子育てに疲れた俺の失敗ですよ。カイユーが煩いからと小遣いを渡して宿屋から追い出したら、あいつはフェールを連れて帰って来たんですよ。」
俺は思いっきり吹き出していた。
行方不明だった飼い猫が野良猫と一緒に帰って来た、というネットの写真画像を思い出したのだ。
「笑い事じゃないですよ。フェールは初対面のくせに何十年も俺と一緒だったような顔をして勝手に隊にいついてしまうし、俺はその日から二人に増えたガキの面倒を見る羽目になったのですからね。」
ああ、君は本当に情が深い。
俺がそう口にしようとした時、俺の耳を女の気怠そうな吐息がくすぐった。
「ああ。」
ノーラはアールに引き寄せられて肩から背中をアールの手によって揉み解されているところで、俺に初めて見せた官能的ともいえるノーラの表情には俺は空しい思いだけが胸に押し寄せていた。
「あの、ダグド様。ノ、ノーラとの婚約を認めて下さいませんか!」
人形のように笑顔しか見せない青年が、ただでさえ白い肌を青白くさせて、奥歯を噛みしめているような、後が無いような真剣な表情を俺に見せたのだ。
俺はあの子の顔に絶望が浮かぶ様を想像してしまったのである。
ガチっと歯ぎしりの音がしたのは、アルバートルも同じ気持ちだからだろう。




