ノーラの異変と刺繍
俺がノーラの異変を唱えるや、アルバートルはすぐにヘッドフォンを監視用機材に繋ぎ直した。
ノーラの様子を数秒見守っただけであるのに、アルバートルは嫌そうに右の頬をぴくりと引き攣らせた。
「すっかり手懐けられていやがる。あいつは軽いな。」
俺は娘を非難されて立つ瀬が無いが、娘を庇うよりもアルバートルと同じ意見でもあった。
魔法がいつ使われたのかわからないが、見たままではノーラはアールに恋をしている新妻のようなのだ。
夫の服の刺繍をする妻はふと手を止める、それから彼女は何かに失敗したのに気が付いたのか、夫を伺うようにして見上げた。
妻の視線を受け止めた男は、妻の失敗などなんの失敗にもならないと安心させる笑顔で微笑み返す。
「あ、あの、ごめんなさい、あなた。あなたの大事な服が台無しになってしまったみたい。」
謝り始めたノーラは、アールのローブを不幸の印のように掲げた。
俺はそこでノーラは演技していたのだと安心した。
「すごいな、ノーラは。確かにあれは大体の男がひくね。」
裁縫上手のノーラであるが、そんな彼女がアールの服に施した刺繍は、なんだか呪いの配列のようなおどろおどろしい図案だったのである。
一部分を抜き出せばそれは見事なものだが、刺繍を全体として見ると、どよーんと字幕を付けてしまいたくなるほどの蓮コラ並みの気味の悪さだ。
俺はこんな嫌がらせが出来るノーラに頼もしいという気持ちを抱いたが、アルバートル達がノーラを危険視する気持ちもわかってぞわっとした。
怒らせたら俺の服にも呪いの刺繍が施されるだろう、そんな確信だ。
「あの馬鹿。本気で心変わりしたのか?」
アルバートルの低い声に怒りが籠っていた事で、俺はかなりドキッとした。




