不幸な小石は世界のどこにでも転がっている
「雪が降り積もる季節になると、孤児院では寒さと栄養不足で多くの子供が死んでしまうものです。
後ろ盾も無い十九ぐらいの力のない俺は、その頃は死体の処理という汚れ仕事を請け負って糊口を凌いでいました。
ハハ、哀れまないで下さい。
汚れ仕事こそいい金になるのですからね。
そこで、なに、単純な話ですよ。
俺が引き受けた死体の山に、生きていたガキがいたって奴です。
まあ、一時間もしないで死にそうな状態のガキでしたよ。
ですから俺は放っておこうと思ったのに、俺の女房気取りのイヴォアールがお節介でね、介抱なんてし始めたのですよ。」
アルバートルは死なせてやった方がその子供の為だと考えた。
白い肌を捜す事が難しいくらいの内出血で黒ずんでいる状態に、少年の死因は餓死でも凍死でもなく暴行による死となるだろうと一目でわかったのである。
否、他の死体も似たり寄ったりな状態であるのだ。
手足が細く小柄な子供は煙突掃除をさせられる。
ブラシで掃除をするのではなく、子供が煙突掃除用のブラシなのだ。
煙突に放り込まれたところで暖炉に火がつけられる。
子供は焼け死にたくなければ、自分の手足だけで煙突を登って外に出なければならない。
その後成長して体が煙突に入らなくなった子供は、教会の農地の開墾に牛馬のように使われる。
動けなければ鞭や棒で叩いて無理にでも動かすのだ。
死にかけた少年の手の平と膝と足の裏には、火傷によって出来たであろうケロイドが残っている。
彼は煙突掃除から生き延びたのに、その褒美が折檻によって叩き壊されるだけというものだったのだ。
今回アルバートル達の情けによって生き永らえさせ、別の孤児院に放り込んだところで同じ奴隷生活が少年に待っているのは目に見えている。
イヴォアールの介抱は自己満足でしかなく、目の前の少年の不幸をさらに続かせるだけなのだ。
「哀れだと考えるならば手当などせずに雪に放ってやれ。俺が今すぐに撃ち殺してやってもいい。」
しかし、イヴォアールがアルバートルに返したのは殺気だけである。
ヒールの邪魔をしたら殺すとイヴォアールの背中は語っており、アルバートルは大きく息を吐くと相棒に声をかけた。
「御者台に早く乗れ。ガキもこっちに連れてくればお前もこっちに戻って来れるだろう。さっさと来いよ。俺は吹雪の中で野宿をしたくないんだよ。」
「ああ、そうだね。アル。急ごう。屋根のある所でベッドに寝かせてあげたいね。この子はまだ生きているのだもの。」
イヴォアールはアルバートルに対して、信じていたよ!的な感激を伴った目線を寄こしてきた。
褐色の肌に灰色の髪と灰色の瞳を持つイヴォアールは、男でも惚れ惚れとしてしまう程の美丈夫でもある。
そんな男に見つめられても相棒として長いアルバートルには嬉しくも無く、彼はイヴォアールに見つめられる度に必ず考える事を考えただけだ。
確かに水色ではなく色味が無いような色でもあるが、なぜ淡い色の青い瞳にしか見えないのに、誰もがこいつのは灰色と呼ぶのだろうか、と。
シルバーの瞳って呼ばれ方は格好良いよなと、アルバートルが相棒に鬱屈した感情を抱いた時、そんなことを知らない彼の相棒はさらに目元を輝かせた。
「大丈夫だよ、心配いらない。この子は生き延びるよ。」
次はアルバートルを力づける?ような口調だ。
イヴォアールこそ理解できない男であるとアルバートルは結論付け、イヴォアールの自分に対する目線やら物言いについてそのまま流した。
彼は酒と女が必要であり、それには屋根がある宿屋に行かねばならないのだ。




