戦況は一瞬で変わる③
敵の大将の兜を剥いだら、この世のものとも思えない美青年だった。
背筋がゾクゾクするような程の眼つきで睨む男の美貌を見てしまったのだ。
俺の中で悪戯心が目覚めたのは仕方が無いであろう。
俺は他の騎士たちの兜を飛ばす事に腐心してしまった。
「インペティスウエンティー!」
俺が右腕を斜め上に薙ぎ払うようにして叫ぶと突風が騎士たちを襲い、カン、ヒュン、カンカンと、狙い通りに次々と兜が宙に舞った。
勿論、全員の落馬つきだ。
そして、馬から落ちて一様に髪をかき上げたりしている素顔の男達は、想像通りに俺の乙女達にお似合いのごつくてハンサムで色とりどりだった。
「うわぁ、手に入れたいねぇ。」
ぐすり。
俺は泣き声にびくりとして振り向いた。
なんと、俺の強くて正しいエレノーラが泣いているじゃないか。
「どうしたの!」
「だって。ダグド様は男の方が好きなんですね。」
「いや。全然。でもさ、君達の相手としてどうかなって。やっぱり種族は一緒の方が幸せになれるかなぁってさ。ちゃんと持参金も付けるし、結婚先で姑に虐められたら俺が仕返ししてやるし、君達も本当の幸せを考えてもいい頃じゃない?」
「それ以上いうなぁあああ。」
エレノーラは俺に大筒を向けて、ぼんっと俺を撃った。
俺はぽんっと飛ばされて、敵の大将の両腕に抱えられた。
「大丈夫ですか?」
「単なる空気銃だからね、平気。って、お前は親切な男だな。」
プラチナブロンドの美丈夫は、日に焼けた肌でもわかるぐらいに真っ赤になった。
「いえ、あ。」
彼の手は緩み、俺はどさりと敵陣の中の地面に転がった。
そして俺を撃ったエレノーラは俺を置いて城門の中へと一目散に駆け込んで行き、なんと、城主の筈の俺を残して扉を閉めたのである。
俺は本気で彼女達の幸せと俺の幸せを考えていたのだが、俺の後ろに控えていた乙女達もエレノーラと同じく俺を裏切り者と断罪したらしい。
門はぴったりと閉められて沈黙してしまった。
俺はむっくりと起き上がると、そのまま胡坐をかいて今の状況への嘆き声をあげた。
「あ~あ。竜と人間なんか、間違いの元なのにねぇ。」
「まことにそう思います!」
俺の数分前まで敵だった男は、俺に同調しただけでなく、俺を崇めるかの姿勢で俺の前に跪いたのである。
そして、剣を掲げて最高の礼を俺に対して現したのだ。
「おい!」
「私は、騎士団長のアルバートルと申します。あれは、我が妹では無いですか!」
「はい?」
騎士団長が語るには、彼は生贄とされた妹の恨みとして村を捨て聖騎士団に入り、俺を撃ち滅ぼすためだけに鍛錬を重ねていたと言うのである。
「ところが、俺の妹は生きていました。生き生きと、あなたを撃ち殺せるぐらいにたくましく。これに感謝しないでなんとしましょう。」
「俺は失敗したなぁって、絶賛後悔中だけどね。」