壊れた公衆浴場
二日のカウント開始は、アルバートルが迎賓館から出た十四時五分で良いだろう。
とりあえず俺は時間を逆カウントするタイマーをスタートさせた。
それから六時間後、ノーラ達が夜の散歩に出ると迎賓館を出たところで、俺はヘッドフォンを外して床に横になった。
「ああ、肩がこる。これが二日で良かったよ。」
俺の隣ではすでにシロロが俺の用意していた寝袋で芋虫になっており、俺がヘッドフォンを外すよりも早くヘッドフォンを手放して、すぐさま武器の手入れをし始めた男を俺は見つめた。
こんな剣も持っていたのかと俺を驚かせた彼の剣は、剣というには短くて鉈に近く、この世界の大振りの剣と違い、スマートな刀身の刃の部分がかなり薄くて切れ味が良さそうなものであった。
もともとはもっと長かった刀身だろうに、切れ味を追求した研磨によって短く平べったくなってしまったのだろうと考えて、俺は背筋がぞっとした。
これならば、人の手足などは簡単に切り落とせるに違いない、と。
「ぞっとしないな、君のその剣は。」
「――これは俺の相棒のようなものですね。こいつで俺は最後には生き残って来ました。弾が切れたらね、こいつの出番なんです。」
「領地に来た時に振り上げていた長剣は、あれは飾りだったのか?」
「ハハハ、確かに。ええ、あれは号令用のお飾りですね。」
「――それはノーラの腕を切り落とすためのものか?」
アルバートルは頼んでもいないことをしたのだ。
呪印が消えなくても構わないからノーラに指一本触れるなとアールを威嚇し、ノーラにも腕をぶった切ってやると脅しつけたのだ。
「ええ、もちろんですよ。」
「アルバートル。」
「これを見せれば、あいつはもっと真剣になりますかね。諦めさせる予定の男に夜の散歩をしましょうなんて、頭がお花畑過ぎますよ。」
「はは、確かに。でもね、あの子はねぇ、自分に自信が無いんだよ。だから皆に優しくいようと振舞ってしまうんだ。あんなにきれいで可愛いのに、生育環境が悪かったんだね。」
「ようやく甘すぎるお父さんだと認めましたか?あなたの背中に隠されていたんじゃ、自分の形なんか大したことが無いと見誤ってしまうでしょうよ。」
「違う。あの子は財産略取の為に生かされていただけの子供で、俺への生贄って話を利用した父親に、第一城門で殺されかけた子だってこと。」
「父親に、ですか?」
「ああ。あの子には死んだ父親の財産狙いの叔父だって言い含めたけどね、本当は死んだ母親の財産狙いの実の父だ。」
アルバートルは俺の話を聞くや再び剣を磨き始め、だが、彼なりの返礼なのか、彼はとある少年との出会いを語り始めた。
彼がその少年に出会ったのは教会の孤児院だ。




