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父親としてやれること

「感度はどうだ?」

「良好です。」


 アルバートルの左耳には小型イアホンが嵌り、そのイアホンが拾う音はノーラとアールを二日間押し込める事になるダグド領の迎賓館だ。

 俺は自分の城に領民も客人も入れたくない人食い竜でもあるので、領内に瀟洒な3LDKの家を迎賓館として建ててある。


 まあ、迎賓館として、というのは真っ赤な嘘だ。


 元々客人など考えてもいない俺がそんなものを想定して家など建てるはずも無く、この家はいつかエレノーラが俺を見限った時、あるいは彼女に人間の恋人が出来た時にそこに住まわせようと考えてのものだった。

 建てた時点では俺と彼女の未来など無いと考えていたはずだが、情けない事に、その時点でも俺は彼女に嫌われても彼女を手放す気は無かったという事だ。


「すごい魔法ですね。」


「魔法じゃないよ。それは純粋な道具だよ。君が持つ銃のようなね。相手は俺よりも老獪な魔法を知っている妖精だ。魔法じゃ太刀打ちできないからね、情けない小技だよ。」


「いいえ、これは魔法ですよ。全ての部屋にあなたから手渡された集音マイクを仕掛けましたが、シロロ様の足音やおしゃべりの声が全て聞こえます。」


 アルバートルの言葉通り、俺の耳にもシロロがトテトテ歩き回る音や、歩き回りながらうんこの歌やウサギの歌を口ずさむ彼の声が感知できた。

 適当にしゃべりながら移動してくれと魔王に頼んだが、適当にもほどがある。


「よし。じゃあ君にはノーラの移動を頼む。アールは俺が案内する。黒竜様として、お客様の持て成しぐらいはしないとだからね。」


「わかりました。あなたがアールをここに放り込むまでノーラを入れるなって事ですね。了解です。」


「ねぇねぇ、僕は?僕もご飯が終わったらまだやることがあるの?」

 俺達の悪巧みに喜んで協力している魔王が、期待に溢れた声を出した。


「もちろんもちろん。お昼ご飯の後は適当な場所でかくれんぼをしてくれるかな。アールがこの仕掛けに気が付くか監視して欲しい。アルバートルがノーラを連れてきた時に一緒に戻っておいで。目線は冷蔵庫の角、そこを見ながら返事をして。」


「はーい。」


 俺の目の前モニターには、シロロが俺に振り返った様子がはっきりと映された。

 彼は俺が見えないが、彼は俺を見つめているような目線でのニコニコ顔だ。


「よし。完璧。」


 俺の行為は卑怯なものだろうが、妖精コポポが相手なのだから仕方がない。

 俺は魔法世界における盲点として、魔法の一切ない科学技術を持ちこんだのだ。


 アルバートルにはインカムを渡し、俺は魔法を使わずに音声と映像を監視できる監視小屋を作り上げた。

 小型電池などは残念ながら作れないので、集音マイクはそれぞれの部屋のコンセントの中に隠し、監視カメラも冷蔵庫の上とベッドルーム、そして居間、という三か所に仕掛けてある。

 全部の部屋で無いのは、電源を引いてカメラ本体を隠せる、という条件があった場所がその三か所だけしか見当たらなかったからだ。

 三台だけでは少々心もとないが、全く無いよりは良いだろう。


「あなた。これは一体何ごとですの?」


 俺を昼食を呼びに来たエレノーラは、部屋を見回して俺が設置した監視用の機材に目を見張った。


「こんな場所にあなたは二日も籠ってしまうの?」


 俺は迎賓館の監視小屋を城ではなく、迎賓館近くにある公衆浴場の脱衣所にしつらえたのである。

 魔法を使わない盗聴器と監視カメラでは、映像と音声を出力できる範囲が数十メートルも無く、迎賓館からこの公衆浴場までがせいぜいなのだ。


「ノーラの安全を見守る必要があるでしょう。ここは風呂も水もトイレもあるし、外から中の様子を覗けない場所だから最適なんだよ。」


「まあ。でも、こんなもので監視されていた事を知ったら、あの子はとっても怒るのではないかしら。」


「そうだね。怒ったら大怪我をした事を黙っていたことを持ち出そう。俺に知らせずに、勝手に異国の地に埋葬されることを望んだことを叱り飛ばそう。」


「あなた。でも、それは兄が仕組んだ事でしょう?」


「たとえそうでも、あの子はそれを俺に言ってこなかったんだ。あの子としてもアルバートルの考えに賛成していたって事だろうよ。」


「あなた。」


 妻の声に俺を諫めるような響きがあった事で、俺は自分の鬱憤を哀れな娘のノーラにぶつけていたと認め、なんて自分は情け無いと頭を下げた。

 床に座り込んで頭を下げている俺はとても哀れみもあるはずで、俺が期待したとおりにエレノーラは俺の真後ろに座り込んで俺の背中を抱いてくれた。


「――君は同じことをしないでくれ。大丈夫だって笑うんじゃなくてね、不安だ、怖いって、俺を頼ってくれ。俺は君が本当に大丈夫か、大丈夫でないのか、心配で死にそうなんだよ。」


「まあ、あなたったら。ええ、ええ本当に大丈夫なのよ。シロちゃんが大丈夫だって言ってるじゃないの。だから心配ないのよ。あなた!」



 だから、死体から生き物を作れるあいつの大丈夫が怖いんだって!

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