子供は叱って育てるもの
「滞在の許可?」
俺はノーラが言い出した事に、ただただ意味が分からないと首を傾げた。
「ええ。ミアには城門が閉まって開かなかったから、私の客人として滞在の許可を城壁に頼んだの。それに、彼等はもう少し生きるべきだと思うの。」
「生きるべき?」
「ええ。バルマンは辛いから死にたいって言っている。でも、彼等を蘇生させた家族は彼等のこんな現在を望んでいたはずじゃないと思うの。だから、死ぬにしても楽しいって時間を与えてあげたい。」
「でも、肉塊でしょう。」
「ええ。この肉の量だと子供の姿にしかなれないってシロちゃんが言っていた。ミアは彼等の肉を諦めるって言ったし、彼等も子供に戻っても良いって言うから、ねえ、いいかしら。彼等が自分の身を守れるようになるまで、このダグド領で保護するってダグド様の許可を頂けないかしら。」
俺は良いよというしかない。
ただし、俺の領民に害をなしたその時点で滞在資格を失うとも言った。
ノーラは俺の懸念を心配性だと責めるどころか、俺をさすがだと褒めた。
「じゃあ、あとは彼等が子供の身体に再生するだけね。」
「そうだねって、どうしてシロロがここに来ないの?俺を呼びに来たけど、ああ、あいつはエレノーラの所に行ってお菓子を食べている。うん、お菓子中だから嫌って言っている。どうしよう。もう少しだけバルマンたちは待てるかな。」
一応シロロは俺よりも上級魔物の魔王様なので、俺の呼びかけに気が乗らなければ来ないという選択肢も選ぶことができるのだ。
「大丈夫よ。直ぐに呼び出せる。エラン、今こそシロちゃんから受け取っていた札魔法の召喚術を使ってあげて。」
俺はノーラの言葉にエランへと振り向くと、彼はそうかと自分の額をぴしゃりと打った。
「ああそうか。そうでしたか。もしもの時と大事に取っておりましたが、シロロ様は気軽に俺に呼び出して欲しかったのですね。ああ、それで俺達に岩を落としたり山賊を呼んだりと、いろいろと悪さを仕掛けて来たんだ。」
「いや、岩の時点で呼び出して叱ったりしろよ。お前は鈍感なのか、心が広すぎるのか、それとも本気で陰険なのか、どれなんだよ。」
アルバートルは自分の部下に対して、今俺が思った同じことを全て言ってくれた。
団長にぞんざいな感じで責められた男は悪びれるどころか、元司祭見習いを彷彿とさせる清廉な笑顔で言葉を返した。
「次は何をするかなって、ちょっと楽しかったこともありまして。ノーラと似ていますよね。ろくな事しか出来ない所が。」
「うっさいわね!悪かったわね!ろくな事しか出来なくて!」
俺はもう面倒になっていた。
「エラン。いいから魔王様を召喚してあげて。」
エランによって召喚された魔王様は上機嫌だった。
エランに呼び出されただけでなく、自分の登場を全員から待ち焦がれられて注目を浴びているというシチェーションに有頂天だったのだ。
彼はこのために着ぐるみを脱いで着替えていらしたが、俺のエレノーラの親切なのか、カボチャパンツな王子様衣装を着ているという恥ずかしい姿であらせられた。
そして、そんな彼だが、バルマン達へ施した肉塊から子供の身体への再組成魔法は完璧であった。
「どうして赤目の子が角一本で、青目の子が角が二本なのですか?鬼は元々角が無い種族でしょう?ほら、バルマン達が角に戸惑っていますよ。」
シロロは余計な事ばかり気が付くアルバートルにうふふと笑うと、彼こそ余計なことを口にした。
「ダグド様がいっつも歌っている歌通りにしました!」
俺は勝手に余計な歌を歌うらしい自分の口元を押さえた。
ごめん、バルマン。




