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魔王は降臨する

 牛鬼の鉈は再びカイユーを襲い、しかし、彼が真っ二つになることは無かった。

 彼の親友のフェールが呼び出した障壁が鉈の動きを封じ、鉈が土の壁に取り込まれて牛鬼の動きが止まったの。

 イヴォアールが牛鬼の巨体目掛けて大剣を振り払う。


 ガチン!


 イヴォアールの長剣は牛鬼の鎧を砕いたが、牛鬼の皮膚に傷一つつけるどころか刃こぼれを起こした。


「なんだこの体は!硬くて切り裂く事も出来ない。」


 鎧を壊された牛鬼は大きな雄たけびを上げ、すると、フェールの作り上げた障壁を粉々に砕けさせた。


「何だよ、これは!鎧は行動抑制器具でしかなかったのか?」


 俺の疑問に答える様に牛鬼は敏捷に高く高く飛び上がり、アルバートル達へ躍りかかった。

 頭の猛々しい角には黒い翼までも生やして。

 え?


「うきゃああああああ!あばれうしー!」


 魔王に頭に乗られた牛鬼は彼を振り落とそうと大きく首を振り、何度も首を振るうちに、体が粘土のようにぐにゃんと変形し始めた。


「うきゃああああ!うしーうしーうしおー!うしになれー!」


 どおおん。


 牛鬼が雪原に落ちた時には、姿は完全な黒い牛そのものとなっていた。

 鋼鉄のような張りのある筋肉は隆々で盛り上がり、草ではなく人肉を喰らって生きてきたような地獄の大牛だ。


 俺はシロロが何をしたいのかわからなくなっていた。


 確かに牛鬼はアルバートル隊には手に余っていたが、シロロによって牛の形にされて巨大な黒牛となった今は、完全に無敵な存在にしか見えないのだ。


「さぁ、戦いごっこだ。うしお!大馬がまだ三頭残っている。さぁ、行くぞ!」


 黒い牛はシロロの命令に野太い声で一声鳴くと、ベイラードが作り出した馬へと命令通りに踵を変えた。

 それはまずは一頭の首根っこに噛みついて雪原に押し倒し、周囲にズズンという大きな振動と音の響きを引き起こした。


 やまびこのように、同じような音が俺の耳にかすかに聞こえた気がした。


 俺の注意が切れた一瞬で、大牛はもう一頭の馬の胴体に噛みついて、そのまま二頭が雪原に大きく転がった。

 ズウウウウウン。


 今度はドオンと何かが崩壊した音が、先ほどのやまびこの起きた地点で起きた。

 俺は次に起こることを漠然ながらも理解すると、アルバートル達に叫び声をあげていた。


「撤収だ!今すぐに撤収しろ!雪崩が起きるぞ!ここは深い雪山なんだ!」


 牛は三頭目を目指すことなく三頭目によってはらわたを噛みつかれて二頭目の馬に押し付けられ、身動きの出来なくなった牛は自分が倒した馬によって喉元を引き裂かれた。

 巨大な化け物によって雪原を真っ赤に染めたが、押し寄せた雪崩によって一瞬で真っ白な景色に塗り替えられた。


「おい!お前らは大丈夫か!」


 俺の叫び声は何もない真っ白な平原に空しく轟く。

 これこそ真実だと、今までの事は全て夢だったのだと、俺は死んで真っ白な世界にいただけなのだと、俺は雪原をどこまでも眺めていた。

 俺には雪に埋もれた誰も見えないのだ。




「ああ、畜生。俺が中ボスなばっかりに。皆を死なせてしまった。」


「大丈夫ですよ。もうすぐおやつの時間です!」


 俺は会議室の椅子に座っており、俺の横にはシロロが腰に手を当てている姿で立っており、彼は体をぐりぐりと楽しそうに動かしていた。

 背中の真っ黒な翼は消えていて、体を動かすたびに背中側も見えたが、背中は翼の為にボタンホールのような処置がしてあったようだった。

 リリアナはシロロに羽が生えるって知っていたのだろうか。


「お帰り。大丈夫って、みんなは?」

「城門前に置いておきました。ほら、バルマンもいるでしょう。」

「……ええと、バルマンさんは死んじゃったよね。」


「ええ!グールは死にませんよ!で、体がボロボロで痛がっていたし、肉片全部とか面倒なので適当に肉球にして持ってきました。ほら、元々バルマンたちはミアのお肉にするって約束じゃないですか。」


 俺は口元を押さえていた。

 俺の城門前に動く肉塊がいくつも転がっているなんて最悪じゃないか。

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