混戦
俺の竜騎士連中は、俺の領地に来た時点でラスボス対応可能な熟練度と攻撃力を兼ね備えたピーキー野郎達であった。
よって、彼らが苦戦することは無かったはずだが、多勢に無勢、機動力のあるスノーモビルで敵の攻撃をかわす事が出来てはいたが、アルバートル達がベイラードの乗る要塞馬車に近づくことが出来なかった。
ベイラードが表に姿を現したのは、完全に自分が安全であり、敵であるアルバートル達に他に控えがあるかを確認する目的もあったのだ。
彼はアルバートル達がたった六人でしかないことを確認するや要塞内に逃げ込み、その後は声も存在さえも見せはしない。
彼がその要塞の中にいると確信できるのは、ここにシロロという魔王が存在し、彼がこのフィールドから誰も逃がさないように魔法干渉しているからだ。
そのフィールドを覆っている魔法干渉というバリアは強力で、情けない事にバリア外にいる俺までも完全な傍観者とさせている。
だが、ベイラードだって逃げる気も無いだろう。
彼は自分の布陣が完璧だと思っている。
中心に魔法防御が施された移動要塞を置き、要塞を引く馬は騎手と馬が合体という魔法改造されているからか攻撃的で肉食だ。
馬の背にある目玉を持つ肉塊はもとは人間であったものであろうか。
そんな十二頭の馬達は、今や要塞を守るようにアルバートル達を威嚇している。
また、十名のオークたちは、スノーモビルで近づくアルバートル達に向かって一斉に襲いかかってもいる。
ダダダダダダダダ。
連続した銃声。
これはアルバートル達のものでは無く、要塞からの攻撃だ。
あの要塞にはいくつも砲台があり、その砲台に潜んでいる銃騎士達が、銃口だけ外に出してアルバートル達に銃弾を浴びせているのだ。
アルバートル達に雨あられと銃弾は振ってくるが、彼等を殴り殺すか斧で叩き切ろうとしていたオーク達に皮肉にも弾は平等に降り注いでいた。
十頭のオークの二頭は既に味方による銃弾で体中を穴だらけにして雪原を赤く染めて倒れており、アルバートル達はオークを翻弄させながら彼等を盾にして、あるいは弾薬を消費させる目的か、反撃するどころか煩いコバエのような動きでスノーモビルを操っている。
アルバートル達がぐるぐると逃げて走り回るだけだからか、要塞は今度は小銃ではなく大砲の筒を砲台から突き出した。
ドオン。
一発目が当たったのは、当り前だが鈍重なオークの背中だ。
砲弾に人の鎧が適うはずもなく、真っ黒な鎧どころかオークの形も残さずに、それはぐしゃっとただのミンチ肉へと変わった。
ドオン。ドオン。
要塞の逆方向から発射された一つ目の砲弾がオーク二頭を貫き、二つ目の砲弾はもう一頭のオークの頭を貫いたそのまま要塞を守る馬にぶち当たった。
アルバートルが砲台をグロブス召喚していたのだ。
彼は自分に注目が集まったと嬉しそうに微笑むと、ライフルまでも呼び出して、くるっと銃を回転させた後に曲芸のように二発撃った。
当たり前だが、彼が狙ったオーク二体は額から血を吹き出してそのまま崩れた。
後に残っている筈の二体のオークがすでに雪に沈んでいるのは、エランのスナイプによるものだろう。
俺は見事なチームワークだとほっと一息を吐いたが、アルバートルは余裕そうな笑みのままその場所から動かないのである。
「おい!そこに立ち止まったらお前がハチの巣にされるだろが!」
俺の叫びと要塞からの砲弾の一斉射撃は一緒だった。
アルバートルの前にフェールが躍り出て、両手を前に突き出した。
「われは呼ぶ。古とアースの契約による大いなる盾を。」
ドオンドオンドオンドオン。
雪を裂いて巨大な土壁が天高く聳え立ち、その盾によって一斉に撃ち放たれた砲弾は全て遮られた。
「そうか、あいつは防御魔法だけを鍛えていたのか。補助魔法があれば肉体強化なども不要か。勇者が後方に回る方を選ぶとはね。全く、アルバートル隊はとんだゲーム廃人だよ。」
「穢れし異教徒どもよ。神の怒りの鉄槌をその身に受けろ。」
アルバートル達が目くらましとなったのか、カイユーの操るスノーモビルはイヴォアールを乗せて要塞近くまで迫っていた。
彼らが進む後には、化け物馬の真っ赤な血潮が雪を溶かしてる。
しかし、先ほどのベイラードの咆哮はカイユー達への攻撃魔法だった。
子供の腕の長さ程もある釘がカイユー達に次々と襲いかかったのだ。
これこそ、バルマン達を要塞の壁に貼り付けている釘だ。
一本のそれがカイユーの右肩を貫き、スノーモビルは横転した。
カイユーとイヴォアールは雪原に投げ出され、ベイラードの腐った釘が雨のように彼らへと向かって行く。
「カイユー!イヴォアール!畜生!」
「うおあああああ!」
ガガガガガガガガ。
立ち上がったイヴォアールの力技と言える素振りで、彼等に襲いかかってきた釘の殆どを撃ち払った。
ダダダダダダダダダダダダ。
これはティターヌがガトリングを要塞に撃ち込んでいる音だ。
ガトリングを危険と判断したか、あるいはベイラードの釘の雨がカイユー達を襲い損ねたからか、要塞の一角から姿を現わせていたベイルートがひゅうっと要塞の中に再び引っ込んだ。
ドオン!ドオン!ドオン!ドオン!ドオン!ドオン!
アルバートルの砲撃だ。
連続して受けた砲撃に、要塞は一瞬だけぐらついた。
しかし、魔法防御のある要塞には傷一つつけることも出来ず、そして、その返礼としてなのか、要塞の中から身の丈が五メートルはありそうな牛の頭をした化け物が飛び出して来た。




