神性を失ったガルバントリウムの暴挙
バルマンは全裸にされて、戦車の様な馬車の全面に大の字になるようにして両手両足を鎖で縛りつけられていた。
俺は彼が大柄の白人だったのだと知ることは出来たが、彼の髪色も本当の肌色なども知ることは出来なかった。
彼は彼の血肉をさらけ出されているぐらいに切り刻まれており、そのような状態でありながらも、彼はさらに短剣ほどもある釘によって体中を刺し貫かれて打ち付けられているのである。
いや、バルマンだけでは無い。
胴体を真っ二つにされたもの、四肢を切り落とされたものなど、バルマンを含めてアルバートル達が戦う予定だった十六名のうちの六名が無残な姿で馬車に貼り付けられているのである。
そして、仲間のこの姿に対して助けもしないで隊列に加わっている黒い鎧兜の十名は、面を外していたが、それは、オークの顔をしていた。
「バルマンこそが騙された鬼か?」
馬車は軋む音を立てて止まり、馬車を引く魔法改造された馬達は我が身の醜さに耐えられないという風に嘶き、その馬達の嘶きを合図にしたようにして馬車の上部の扉が開いた。
そこから現れたのは、金色の縁取りのある真っ赤な司祭服を纏った、司祭の振りをした剥げ頭の殺戮者だ。
「教皇の腰ぎんちゃくの一人、ベイラードです。」
アルバートルが俺に囁いた。
ベイラードには俺達の会話は聞こえないはずだが、自分を知らしめることは出来たという優越感に溢れた顔つきで、芝居がかった素振りでゆっくりと両腕を横に開いた。
権威を見せたいのだろうが、俺にはそのポーズは赤い衣も相まってアジの開きのようにしか見えない。
「干からびて腐った魚が!」
「黙れ下郎が!そして聞けい!このデミヒューマンども。そして、デミヒューマンに与する人類の裏切り者ども。蘇生術などお前達が持ってはならないものである。永遠の命も同じことだ。お前達は人に脅えて、人の影で虫のように生きる事こそこの世の習わしだ。禁を侵したこいつらは、永久の苦しみと蔑みをもってこそ罪を贖えるのである。って、うわ、ふああ!」
ばしゅうと音を立てながら、炎の石つぶてがベイラードのすぐわきをかすめて馬車にぶち当たったのである。
魔法の炎は壁にぶち当たって大きく燃え盛ったが、魔法防御を施してある馬車の壁を焦がすことは出来ずにしゅうっと消えた。
「黙るのはあんただよ!神性を失って蘇生もヒールも使えなくなった人以下の、無駄に生きているだけの腐ったジジイが!」
炎を投げたのは剣騎士であるはずのフェールであった。
「どうして。攻撃魔法はフェールには使えないはずだろ。」
「フェールは剣騎士の登録をせずに学校を卒業した馬鹿です。ですが、剣騎士の教育を受けてはいるので教育課程で得られたヒールや補助魔法は使えます。ついでに言えば、彼は剣騎士登録をしなかったからこそ、覚えられた魔法は使えるというひねくれものなんですよ。」
「うそ、そんなことができたの?」
アルバートルに聞き返しておいて、俺は出来ると自分で自分に答えていた。
俺と友人がお遊びだけで作った自由人というジョブだ。
子供の頃のゲームはネットではなく一人だけでゲーム世界を探索するというものであり、自分自身がなれるのは勇者というキャラターだ。
俺達はそんな過去に遊んだロールプレイングゲームへのオマージュも込めて勇者をイメージした自由人というジョブを制作したが、色々出来るからこそ経験値の振り分け項目だけが増え、よって成長速度も遅く、勇者になれるどころかHPやMPの伸び幅があまりない器用貧乏で使えないジョブとなった。
「俺もびっくりでしたよ。彼は自由人だと嘯いていますがね。」
「はは、奴め、自由人か。どうりで他所の家の引き出しを開けたがるはずだ。よし、アルバートル。ティターヌ。そしてエラン。グロブス召喚で乗り物を出せ。二人乗りのスノーモビルだ。鬼達を救い出す。まずはガルバントリウムの兵の排除。俺達は人類の敵である黒竜軍だ。神に弓を引くぞ。」
俺の竜騎士達は呼び出したスノーモビルに分乗すると、俺に愛していると叫びながら神の名を騙る殺戮者達に向かって行った。




