戦況は一瞬で変わる②
俺がおどおどと乙女隊の花嫁にも見える着飾りについて尋ねると、俺のエレノーラは男勝りにワハハと笑って気さくそうに答えてくれた。
「あら、ダグド様。あれは乙女の歌を斉唱するための服じゃないですか。」
そうだ、友人と冗談で作った補助攻撃魔法だった。
ステータスの一つである魅力を一定以上あげることで使用可能になる魔法だが、聖なる乙女達の歌を次々と敵に送る事で、敵の行動速度を落とし敵の思考までも書き換えてしまうという恐ろしい魔法なのだ。
つまり、パソコンのパケット攻撃であるリフレクション攻撃を見立てて、そのままゲームの魔法の一つにしてみただけだ。
恋人に次から次へと結婚情報誌を手渡されていた友人の恐怖の体験から編み出された魔法、ともいえるが。
「ははは、乙女の斉唱かぁ!」
ちょっとやってみて欲しい気もしたが、彼女達の花嫁姿は俺にブラクラ効果を引き起こしており、命令どころか乾いた笑いしか出てこなかった。
引き籠りの俺が、いつチャームをレベル99にしていたのだろう。
「女を盾にするとは!この卑怯者!メテオ!」
いつもながら空気を読まずに浅はかな攻撃を繰り出して来た魔女は、やはりメテオじゃない石つぶてを俺に目掛けて打ってきた。
俺は右足でペダルを踏むような動作で彼女に対応した。
どおん!
魔女は足元から飛び出て来たげんこつに飛ばされて、空高く舞い上がった。
魔女が消えて魔力が途切れた石つぶては、ただの燃える石でしかなく、俺に襲いかかるどころか重力に逆らえない。
「ぎゃあ。」
「うわぁ。」
「わぁ!」
全て味方である白装束の上に落ちるだけだ。
僧衣が炎に巻かれた者達に、情のある俺は水を与えることにした。
「ヒドルス!」
近くを流れる川から蛇のような姿の高圧水流が彼らへと襲い、百人の兵は下っ端であるという事を証明するかのようにほうほうの体で散り散りに逃げて行った。
残るは六人の騎士団のみ。
「この悪竜め!我が剣の錆となれ!」
騎士の一人、真っ白い馬に乗った鎧の騎士がようやく俺と同じブラクラから立ち直ったのか、剣を鞘から引き出したのだ。
彼に倣って残りの五人も剣を構える。
俺はもう一度右脚を地面に打ち付けた。
ばしゅん!
騎士は魔女のように跳ね飛ばされなかった。
俺のげんこつ出現魔法、プーグヌスが無効化されたのだ。
いや、完全無効ではない。
一番偉そうなその鎧騎士を落馬させた上に、兜までも跳ね飛ばしたのだから。
騎士は頬骨の辺りを赤く染め、真っ青で美しい瞳を苛立った眼つきにして俺に向けた。
「おう、殺すのがもったいない男ではないか。」
俺が感嘆の声を出したのも仕方が無いであろう。
俺の魔法を打ち消した騎士の素顔は、日に焼けた肌に似合う白に近い金髪に、海よりも青い瞳という美丈夫であったのだから。
まるで神様を模して造られた石膏像のように、彼はなんと神々しく美しいのだ!




