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キリングフィールド

「ふざけんな!遊びじゃ無いんだ。何を考えているんだ。いや、考える脳みそが無いお前の考えそうなことだったな!」


 俺はアルバートルがここまでノーラを罵るとは思わなかった。

 妹同然どころか、本当の妹であるエレノーラにはこんな言葉遣いも言い方もしたことが無いはずなのだ。

 しかし、ノーラは笑顔を崩すどころか、顔色一つ変えなかった。


「え、考える頭って、公衆浴場の壁を壊してしまう事かしら?」


 一瞬でアルバートルこそ真っ赤になり、なんと、彼は会議室の椅子を蹴った。

 蹴られた椅子は大きく音を立てて壁にぶち当たり、会議室にいる者すべてを硬直させた。


 エラン達が旅立っての二日目の夜、公衆浴場の露天風呂の壁が倒れて、アルバートル達が怪我を負ったという事故が起きたのだ。

 壁が外側に倒れて、内側にいた筈の彼らが怪我をしたのは不可解だが、全裸の姿を領民に見られたという事実は若い彼らには恥でしかないであろう。


「ノーラ、あれは不幸な事故なんだから言ってやるなよ。裸の状態で倒れた塀を咄嗟に支えるなんて、力自慢でも無理な話だよ。」

「あら、そんな話になっていたの?あれはね、」


 ノーラは飛び掛かってきたアルバートルに抱きしめられ、抱きしめたアルバートルはナデナデとノーラを掴んでいない方の手で彼女の頭を撫でだした。


「ふふふふ。俺は君が怪我をする事が心配なだけでね。わかるだろう。ねぇ、ノーラ。わかるよ。カイユーと常に一緒にいたいって気持ち。ふふふ。だからさ、今回は許してあげよう。だから、わかるよね。」

「うふふ。わかったわ。わかったし、邪魔はしない。商談は成立ね。」

「はははは。」

「うふふ。」


「なんだ、君達は仲の良い兄妹みたいだね。」


 彼らは兄妹みたいに同じ表情、ふざけんな、という顔を同時に俺に見せると、俺の目の前でぱっと離れた。

 そして俺は会議室に来た本当の理由、これから数分後には戦場に送り出される彼らへ労いをしに来たのだ。


「君達はこれから辛い戦場に出る。正義も何もない、敵を屠るだけの戦場だ。俺から君達に言う言葉は、絶対に死ぬな。名誉も無い戦場ならば、危険を感じたらすぐに戻ってこい、それだけだ。」


「あ、じゃあ、行くの止めていいですか?」

 当たり前のようにカイユーが右手を上げて発言したが、彼はその姿のまま俺の目の前から掻き消えた。


 アルバートル隊の面々は一番の下っ端が消えたことでざわつき、ざわついたまままた一人と、次々と掻き消えて行った。


 後にはノーラとミアが残り、白いウサギさんはノーラの腕の中にぴょんと抱きついた。


「いいの?姉さま?」

「いいわよ。お願いシロちゃん。」


 彼ら三人も俺の目の前からパッと消えた。


 俺は急いで会議室の全てのモニターに彼等の映像を映し出した。


 真っ白な雪原の中に真っ黒な影がシミのようになっている。

 真っ黒な彼らはぽつぽつとシミのようになって雪原を展開しており、既に攻撃態勢を取っていた。


「あれ、どうして。あと一時間はインカミングはしないはずなのに。」


 攻撃態勢を取っている彼らの迎え立つ方角には、俺が見慣れすぎてうんざりする旗がはためいていた。

 真っ赤な地に金色のライオンと薔薇と神からの盃が描かれている、ガルバントリウムの勢力地であることを示す旗印だ。


「シロロ、何が起きているのかわかるか?わからなくてもすぐに全員を連れて引き返せ。これは仕切り直しが必要だ。」

「できません。」

「お前がロックされたのか?」

「違うの。バルマンが酷い目に遭っている。僕はバルマンを解放したい。」


 俺はモニターにシロロの見えているものを映した。

 無理矢理に巨大化されてナウマンゾウのような姿になった十二頭の馬は、三階建ての建物ほどに大きな巨大な馬車に繋がれており、そして、馬車の壁という壁には残酷なオブジェが貼り付けられて飾られているというものだった。


「はっ。畜生。」


 俺はその情景に反吐を吐くだけだ。

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