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別れ

 シェーラとエランはダグド領を旅立った。

 ダグド領を富士山とすると、福島県と宮城県の県境ぐらいにある街に彼女の姉がいるという探索の結果が出たからだ。

 俺が知らない街でシロロも知らないという事でテレポートは使えず、彼女はエランと一緒に馬でその地に向かうという事になった。

 片道がひと月以上ともなるが、帰還するには旗魔法もある。


 エレノーラは冬の祝いの日には戻って来いと、シェーラをぎゅうっと娘のようにして抱きしめた。

 彼らは旅の為の餞別を次々と手渡され、俺からもエランに路銀を手渡しており、何かあれば使える札魔法もシェーラに持たせているので危険は無いだろうが、あの冒険好きのカイユーが嫌いだと言っていた北という事もある。

 俺は次から次へと溢れ出す心配で百歳も年を取ったような気持ちになりながらも、誰からもどっしり構えているように見える様に振舞って彼等を送り出した。


 送り出して、彼等の姿が見えなくなってから、俺はシェーラがこれから何に出会う事になるのかと、見送る全員に聞こえる様に呟いた。


「姉が死んでいたという事実に出会います。シェーラがどれぐらい傷つくかわかりません。でも、一か月もの旅はきっと辛いから、きっと物凄く辛いから、今以上にシェーラが自分を責めるって事は無いかなって。ちゃんと家に戻って来てくれるかなって、私の独りよがりな希望ですけど。」


 俺はノーラの肩を抱いて引き寄せた。

 シロロの探索によって、シェーラの姉がシェーラ達が教会に捕らわれた次の年には死んでいたことはすぐに判ったのだそうだ。

 せめてシェーラの姉の遺体の探索をと霊を呼び出してみれば、遺体の場所どころか彼女を殺した男の経営する売春宿まですぐに判った。


 カイユーとフェール、そしてエランはその男の売春宿を破壊して男の財産を全て奪い取り、奪った財産を売春宿に捕らわれていた女性達に手渡して逃がしたのだという。

 彼等はその男どころか用心棒の一人も殺さなかったが、全てを失った男は、三日も経たずに彼がしてきたことの報復なのかリンチによって惨殺されたらしい。


「売春宿の破壊こそ彼女にさせれば良かったのだけど、あそこはとてもひどい所だった。一秒でも早くそこにいる人を助けたくなるほどに酷い所だったの。人が人にどうしてそこまでやれるのか理解できない程に、あそこはとてもひどい所だったの。」


「ノーラ。君はそこを見たんだね。」


「ええ。探索するシロちゃんだけに辛い思いはさせられない。ごめんなさい。ダグド様。シロちゃんに酷いものを見せてしまった。」


「大丈夫だよ。ノーラ姉さま。僕は今までにもっとひどいものも見ているもの。」


「シロちゃん!」


 ノーラはシロロを抱きしめたが、俺は彼女の腕からシロロを取り上げると彼を抱きしめ、彼が見て来た酷いものの記憶が少しでも消えればいいと思いながら、彼の背中をぽんぽんと撫でていた。



 この暗黒な中世の世界こそ破壊するべきなのかとも考えながら。



見送りが終わった俺は見張り台に立つ男の横に立った。


「君は本当に情が深いね。あの子たちの安全をここから見通してくれているんだ。」


「――あ、そういうことで。」


「違ったのかよ。」


アルバートルはすっと右腕をあげ、エランたちが向かった方向から十五度ぐらい外れた方角を指し示した。


「なかなかにいい女が揃ってます。遊びに行っていいですか?」


俺はアルバートルの足を蹴った。


「大嘘つきやろう、が。」


「そういうことにして下さい。俺はそれでいい。俺はその方がいい。」


「――どんないい女がいたんだ?君の好みってどんな感じだ。」


「――地味に見える美女がいいですね。他に俺以外の客がいても、俺だけだって思い込める楚々とした女がいいですね。そうしたら俺はそいつの嘘に騙され続けてやれるってもんです。」


アルバートルは再び遠くを見つめた。

その方角はエラン達が進んでいく先でしかないというのに。

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