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駆け付けた助っ人

 ノーラの脅しに静まり返った軍勢だが、彼等は虐殺に来たのであり、何もせずに帰るという選択肢は持っていない。


 フェールの手の中の人質は味方の兵によって頭を撃ち抜かれた。


 そして、フェールは再び長槍を向けられただけでなく、槍は彼の身体を貫こうと向かって来た。

 が、しかし、

 空を舞っていたカイユーによってフェールは天上へと連れ去られ、槍はフェールを刺し貫くどころか槍を持つ騎士同士で貫き合った。

 どん!

 どん!

 重たい音が連続して起きたのは、カイユーの銃撃を交わしていたスクロペトゥム達が大砲を次々に召喚したからだ。

 農民達は逃げまどうどころか全員が赤アリへと取り囲み始め、ノーラに向かって石を投げ、赤アリへと手に持つ農具で打撃攻撃を繰り出すなど、完全に混戦状態となっていった。

「お前ら、いい加減に。インペティ――。」


「とらんぺっと!ヴぁいん!」


 俺が憤慨して魔法を唱えかけたところ、赤アリの天辺にいる俺の魔王が意味の解らない叫び声をあげた方が早かった。


 彼の叫び声に呼応し、大地からにょろにょろと一斉に十数本の蔓が天に向かって突き出してきたが、その蔦の先にはオレンジ色がかった赤い蕾がついていた。


「何だあれは。」


 花々はパッと開き、美しい漏斗状、つまりトランペットのような花を咲かせたが、本来のおしべとめしべがあるところには人の唇というグロテスクなものが見える気味の悪いものだった。


「さあ、全員を食い散らかせ!」


 花びらはめくれあがり、花の奥の唇がぐわぁっと牙だらけの口の中を大きく見せつけた。


「ちょっと!シロロ!それは駄目だ!」


 俺は慌てて制止の叫び声をシロロにあげ、しかし、俺の声に重なるように、通りの良い男の声の方がこの混戦した世界を制した。


「生を持たぬ者は憐れなり、心を持たぬ者は哀れなり、生きとし生けるものの理を失ったものは救い無き絶望である。いまこそ土に立ち返れ!」


 一瞬にして全ての召喚獣がぱっと消え、赤アリの天辺にいたノーラとシロロは地面へと落下した。


「何をやってんの!エラン!うわあ、ノーラ!」

「うわあ、シロちゃん!」


 カイユーとフェールの二人が落ち行く彼女達を空中で抱き止めた!

 そして、全てを消したエランの所に舞い降りてきた。


「もう!何をやってんの!死んじゃうじゃん。ノーラが死んじゃうでしょう。」

 カイユーはノーラを必要以上に抱きしめながらエランに声を上げた。

 言い方が子供じみている上に声が震えているのは、カイユーは確実に肝を冷やしたのだろう。


 俺だって一瞬思考が止まったのだ。


 あぁ、彼等に携帯式の自走式グライダー、ルシファーの翼を与えておいて良かったと、俺が初めて思ったくらいだ。


「そうだよ!いくらのシロちゃんだって怪我をしちゃうでしょうよ。君は何を考えているの?だから銃騎士スクロペトゥムは嫌なんだよ。この、考え無しの打ちっぱなしの早漏野郎が!」


 シロロの両脇に手を入れて掲げ持つフェールの言い分には俺も同感だが、俺とは同感で無かった男が俺に囁いた。

「たまに部下を撃ち殺したくなるのは俺が考え無しだからですかね。」

「大砲持ちの銃騎士を排除してくれたのは君か。」

 しかし、アルバートルは姿を現さず、未だにライフルを構えたままこの戦場から間を取った所で潜み続けるつもりらしい。


「まだ続きがありそうか。」


「まだ続いているでしょう。農民達の始末はどうします?本当はこれこそ狙いだったのでしょうね。狼族の村を殲滅し、守り切れなかったあなたを責める狼族との諍い。そして、一般人によるガルバントリウムのダグド領への侵攻。狼族の村にまず住み着いてあなたの領土の一部略取です。占領しているのは喰い詰めただけのただの一般人、いや、自称難民かな。殺せばただの虐殺となる。今の暴れているだけの彼らを殺しても同じことです。排除しなければいけないが、排除したら俺達は虐殺者だ。」


 俺は溜息を吐いた。


 農民は固く閉ざされた狼族の村の囲いを農具でうち叩いている者がほとんどだが、そのうちの何十人かがノーラ達を目掛けて走ってきて取り囲んでいる。

 彼らが取り囲んだままなのは、目に見えないバリア、シロロの絶対防御魔法によって近づけないからであろう。


「どうしようかな。」


「ノーラ!怪我をしなかった!」

 馬に乗るエランの後ろに女性が乗っていたようで、彼女はエランの後ろから顔を出しただけでなく馬から飛び降りた。

 そして、ノーラに駆け寄った。

 ノーラは自分をいつまでも抱きしめていたカイユーを突き放すと、自分を心配して駆け寄ってくる友人を抱き止めた。

 カフっ。

 ノーラは大きく息を吐いた。


 女の腕はノーラの鳩尾にめり込んでいる。

 そこから真っ赤な赤い筋が一本できているが、それは、その赤いものは!


「ノーラ!」


 カイユーはほとんど悲鳴のようにして叫び、女に銃を向けた。

 フェールもノーラをナイフで刺した女を切り倒そうと剣を掲げ、だが、女の脅しの方が早かった。


「私がナイフを抜けばノーラは一瞬で失血死よ。私は正確に動脈を突き刺した。」



 俺は本当に何も見えていなかった。

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