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お前達の気持ちは分かった

 会議室に意識を戻すと、そこは肌色の世界となっていた。


 肌色と言ってもさまざまである。


 基本的に白人種の色合いだが、フェールは黄みを帯びているし、カイユーは一番白く、そして、アルバートルは香ばしい位の小麦色でティターヌは金色の麦の穂のようだ。


「お前達、どうして真っ裸なのよ。」


 俺は敵の意図を読むやアルバートル達を一気に領土の会議室へとテレポートさせて、残した服を空気人形にして動かしていただけなのであるが、俺が彼等から剥いだのは服だけで下着は脱がせた覚えはない。

 この世界は中世だからこそか、ヘンリーネックのシャツやゴムの部分が紐縛りであるがズボン下という下着は存在しているし、俺はちゃんと支給している。


「これは抗議行為です!」

「そう!ダグド様ったら、なんてことしてくれたの!」


 フェールとカイユーが肩を組んで空の腕を振り上げて抗議の声をあげたが、俺の前世の世界でも、ヨーロッパ人は抗議となるとすぐに裸になっていたり、ヌーディストビーチも作っていたなと思い出し、お前らは裸になるのが好きなだけなんじゃねえの、という差別的な見解が俺の中で芽吹いた。


「抗議って何かな。毒魔法から助けて貰えてありがとうじゃないの?」


「エランが毒消し魔法を持っているじゃないですか!」

 カイユーが真面目に言い返して来たが、確かにエランは元司祭見習いだけあって、状態異常解除の魔法とヒールを銃騎士なのに使えるのである。


 レベル一程度の魔法でしかないが。


「状態異常解除の魔法をそのエラン様は一日何人まで使えるんだ。」


「あ。」


「そんなことは良いんです!いいんだって、カイユー!いいですか、ダグド様。俺が怒っているのは、俺達にあいつらの止めを刺させなかった事ですよ!」


 フェールの大声に俺はモニターを見返して、ボードウィンとヒューベルが自分の仲間だった人間達と混戦している様を確認すると、俺はフェールでなく頭領であるアルバートルに振り返った。

 彼は怒った顔付で腕を組んで俺を見つめているが、俺には本気の彼の怒りが感じられない事から、彼は若い部下を煽って自分のやりたい事を俺に認めさせようという魂胆なのだと理解するしかなかった。


 家族に説教ですよ、か。


「まだ駄目だ。」


「このままでは、近隣に住む住人が無意味に殺されますよ。」


「今日殺されたあの家族は、この近隣の人間だったんだ。」


「はい。ボードウィンと映った映像で、彼女はジュイエ村からダグド領を目指して来たと言っていました。だから、助けて欲しいと。」


 ジュイエ村は西の森を超えた南側、我が領土を富士山とすると沼津の辺りと言ったところにある村で、完全にガルバントリウム勢力内のものである。

 そこからダグド領を目指してやぶ蚊の野営地に連れていかれたのだとしたら、彼らは西の森は既に超えており、ダグド領に入った所でダグド領を見張るやぶ蚊に強襲されたのだろうか。


 我が城というか領地は三重の城壁で囲まれており、一番はじの城壁が国境のようなものとしているが、実質はもう少し外に範囲が広がっている。

 西の森が広がる手前までが俺の領土だと言ってもよいのだ。

 また、教会や通商がひいた街道も国境線ともいえるものであるので、間に森のないディ・ガンヴェルや森が切れた先のガルバントリウムとの俺の領土の境目はその道が線引きとなる。

 絶対的に守りたいのが城壁内であり、城壁外の領地についてはそこに武装して一歩入れば俺への敵意と見做して相手を攻撃できる理由となるので、荒れ地のまま特に何もせずに放って置いている。


 あぁ、そうだ。

 最近は狼族を住まわせて領地の譲渡もしていたのだった。


「彼等はダグド領に入っていたと、狼族のブランドン族長が言っています。」


「それで君達は彼らを助けに行ったのか。でもね、それでも彼らは俺の領土の人間ではないのだよ。彼らこそ、ガルバントリウムの人間では無いのか?今後、そういった彼等を守るべきは教会の方ではないのか?」


「見捨てるのですか!」


 ばあんと会議室の大机を両手を打ち付けて叩いて叫んだのは、なんと、カイユーだった。


 いつもはフェールの仕草であるのにと彼を見通せば、彼の後ろに横転した馬車や散乱した家財道具、そして、乱暴を受ける女と遺体となった男の映像が彼の姿を覆っていた。


 今回の惨劇は彼の過去そのままの再現であったのだ。


 そして、カイユーはいつもの軽口を叩くことなく俺をじっと見つめ、いつもは出す事は無い低い声で俺に懇願をしてきたのである。


「俺は教会の聖騎士に助けられて教会の孤児院で育ちました。それが、教会の騎士こそが強盗行為をしていたのですよ。お願いします。俺は教会を潰したい。」


「そうだね。だけどね、あのやぶ蚊の連中は通商の通行証のない人間を監視する役割と逃げた教会の信者を捕える任務も負っていた。教会と通商を一緒に潰さなければ意味がない。」


「ダグド、さま?」


「俺も悩んでいるんだよ。ここで小さく平和で幸せにいたいだけなのに、それを守ろうと考えたら、邪魔なものは排除しなければならなくなる。そうして排除してどうなる?大量の路頭に迷った人々の面倒も見なければいけなくなる。さて、どうしようか。俺が守りたいのはこの城壁内の人々、それだけなんだ。」


「外の人間は関係ない、と?」


「じゃあ、こうしようか。君達は俺の本来の国境を守る。俺の領地に武力を持って一歩でも入ってきた奴らは完全排除だ。逃げてきたものは、さて、どうしよう?俺は彼らを受け入れないよ。彼等はどうしよう?」


「では、死ねと。ここに受け入れて下さいよ。」


「カイユー、ダグド領はね、もともとコミュニティから捨てられた人達が集う場所なんだよ。元兵士で足や手を失った者。年老いて捨てられた者。病気だからと捨てられた者。うん、生贄の娘達も捨て子って奴だよ。肩を寄せ合って生きているのがここの領民達なんだ。健康で、家族がいて、未来がある者達はここには入れない。城門が開いた人間にしかここは住むことが出来ないんだよ。」


「あなたの許可ではなく?」


 俺は朝にジェドに答えていた言葉を繰り返していた。

「俺が許可していたら、誰もここには入れないよ。」


「ダグド様?」


「ダグド領の城門はね、大昔、生贄の到来を待っていたダグドがかけた魔法でね、日々学習して俺の意思には関係なしに勝手に動いている。ある意味、ここの本当の主様に近い。」


「俺達は入れてくれたでは無いですか。」


「いや、判断だよ。城門の。君達は死の呪いを受けており、帰る場所がなく、その時点で生きる糧も希望も無かった。そうだろう?」


 カイユーは目を大きく見開いてからアルバートルをぐるっと振り返り、彼の隣のフェールはカイユーよりも隊の当時の状態を理解していたのか、そうだという顔をしてぎゅうっと目を瞑った。

 アルバートルとティターヌは下半身丸出しのまま余裕の笑みを顔に作っている。


「嘘、団長!マジで?俺達そんなにやばい状態だったの?」


 アルバートルは清々しい笑顔で部下に答えた。

「結果オーライだ。」


「団長!」


「まぁ、いいから、シャワーでも浴びて服を着てきて。今すぐにどうしようか決めるよりも、一緒に考えようよ。」


 カイユーは首が折れる勢いで俺に振り返り、子供のような表情で俺の目を真っ直ぐに見て、子供のように俺の言葉を繰り返した。


「一緒に考える?」


「そうだ。一緒に考えよう。一人で考えるよりも、そっちの方が良い案が出るだろう?」


「……風呂に、入ってきます。」

 カイユーは自分の言葉通りにそのまま踵を返すや会議室を出て行き、廊下にペタペタと足音を立てながら遠ざかっていった。


「ちょっと、カイユー!俺も!」

 フェールは相棒の後を慌てて追いかけ、そして俺は彼らが消えた事で思い出した事を彼らの背中に叫んでいた。


「こら!脱ぎ捨てた下着くらい持っていけ!」

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