そのままじゃ人間じゃなくなるよ
囲まれたところでアルバートル隊と比べれば烏合の衆でしかない茨騎士団だ。
それも、彼らを率いる頭領のボードウィンがおらず、統率の乱れている略奪集団に成り下がっている状況だ。
そんな彼らがイヴォアール達を見つけたのだ。
シェーラが彼らに同行していたのは、彼女の父親が生物学者で彼女も父親と一緒に森を何度か探索していた過去があるからと志願したからなのだそうだ。
赤毛の華奢な可愛い美女のモニークと、女戦士のような雰囲気の黒髪の美女のシェーラ、そして、世界一可愛い美少女にしか見えないシロロという組み合わせは、数週間野営していた男達には天からの授かりものぐらいの褒美に見えたことだろう。
イヴォアールやエランというボディーガードの存在を忘れ、発情した猿のように彼らは騒ぎ立て始め、ただ獣のようにして彼らに襲いかかってきたのだ。
しかし、最初に襲いかかって来た三名は、エランとイヴォアールによって、それも素手の状態の彼らによって簡単に昏倒させられた。
エランの説明に補助をつける様にモニークとシェーラの記憶も読んでいたが、大柄な男を片手で宙に浮かせるほどの体術など、イヴォとエラン様ってばカッコ良いの一言である。
そんなイヴォとエランという双璧に恐れをなした烏合の衆は、全員が突然懐から小型のガラス瓶を取り出すと、それを一気に飲み干した。
彼らの肉体はさらに筋肉が盛り上がり、人殴りで木の幹に穴を開け、魔法を使えるものは土が大きくえぐれるような炎の魔法をイヴォ達に撃ってきたのである。
「君達は何を飲んでいるのかわかっているの?」
子供の声をしているが、誰よりも冷静で冷たい声が森に響いた。
いつもの表情豊かな可愛らしいシロロが無表情となって、人形のように無感情な表情で彼らを静かな目で眺めまわしている。
「ひ、ひひ。あぁ、人間じゃ無くなるお薬だよ。俺達はそこのか弱い色男なんて紙人形ぐらいの力を得たんだ。」
「薬で?カッコ悪い。」
「悪いお口だ。その口の歯を全部折られたくなければ、大人しくしてろや。」
「ひひ。歯は折っちゃった方が楽しめるんじゃないか。」
「薬だろうとな、俺達は人以上の存在だ。喜ばせてやるぜ。」
下卑た言葉で笑いさざめく茨騎士団に、エランが黙らせてやりたいと一歩前に出たところで、再び彼の後ろからシロロの悪戯めいた声が上がった。
その声はとっても嬉しそうな、これこそやりたかったという声だ。
「そう、それじゃあ、その薬の効力をもっとアップしてあげる。」
エランはシロロに振り返り、彼の笑顔に体が固まった。
脅えたのではなく、純粋にシロロの美しい微笑みに動けなくなっただけだ。
シロロは悠然と無礼者達に対して手をかざし、彼らは叫び声をあげながらオークへと姿を変えた。
「はぁ、お昼までには帰れますかね、俺。」
「シロロはお昼は逃さない生き物だから、それは大丈夫だ。」
「でしたね。」
彼は大きく溜息を吐くと、四つん這いで突進してきたオークの額をライフルで撃ち抜き、半分死にながらでも飛び掛かって来たそれをよけながらも首筋を掴み、邪魔という風に地面に打ち付けた。
オークの顔は地面にめり込み、胴体はビクビクとひくついている。
エランはそんな死体にも目もくれずに再び弾倉に弾を込めると、次のオークに狙いを定めた。
シェーラとモニークはお互いの手を合わせ合う形でくっついて、二人仲良く同じように目を丸くしてエランの勇姿に夢中になっている。
俺は恋人に見て貰えていると考えながら剣を振るっているイヴォに同情の視線を投げると、アルバートルのもとへと意識を変えた。




