シロロとちびクラーケン二匹と戦うお兄さん二人の状況
「アルバートル達の乗る六輪ディーゼル装甲車の目的地は、っと。」
一番小さいモニターに俺ではなくアルバートルの見える情報が映し出されているので、俺はそれを見る事によって彼らの行き先を確認できた。
銃騎士はヒールや補助魔法を剣騎士のように習得できない代わりに、敵や武器のステータスなどが見通せるサーチアイと極めれば百発百中が可能になる鷹の目スキルを手に入れる事が出来る。
出会った時にはサーチスキルが完璧だったアルバートルは、シロロによって新たなスキルを開発されており、それが、衛星のように地上のものを見通せるという百鬼眼システムである。
彼は恐らく誘拐者からの魔法通話を受けながら、彼らのアジトをサーチしていたに違いない。
小さなスクリーンに映し出されている地図には、目的地を表わす赤い点に向かってアルバートル達を表わす四角い枠、フェールが作った黒枠に簡易な黒竜デザインというマークが小さく動いていた。
「彼らがインカミングするまであと十五分もかからないか。」
馬であればその倍はかかる道のりであれば、短縮できた分は彼らの有利となるだろう。
俺はシロロ隊の方へと意識を動かした。
絶対防御魔法というチート魔法を持っている魔王様であるからして、彼がいるパーティに危険が無いはずだと安心材料の一つとして覗いたにもかかわらず、俺は安心どころか心臓が口から飛び出しそうになってしまった。
「何が起きているの。」
世界は混戦状態だ。
鬱蒼とした暗がりだらけの森の中、朽ちて苔むした小型飛行機には木の根のようなものが刺さって檻のような物となっている。
その檻は以前に俺が作ったものだから良しとして、その檻の中にはモニークと、うそ、シェーラまでも閉じ込められて脅えた様に外を見回しており、彼女達を守るように背を向けてエランがライフルを抱えて森の中を撃っていた。
エランがライフルを撃ち込む先ではイヴォアールが長剣を振るっているが、彼に襲いかかっている敵は、緑色がかったゴム人形の質感の肌を持つ三メートルはありそうなオークだ。
「どうして、オーク。ってか、家のすぐそばの西の森にオークがいたんだ。」
十年以上この地に住んでいて、俺がオークの存在を全く知らなかった事に俺はかなりの衝撃を受けていた。
「うきゃああああ!行けー!ぴゅるぽー!」
喜びの雄たけびを上げている白い悪魔は、二足歩行のメタルなオオトカゲに乗って、オオトカゲにオーク達を次々と攻撃させていた。
白く短い髪を靡かせ、白い頬を喜びでピンクに輝かせて、怪獣の肩に足をかけて頭の角を両手で掴むという姿勢で勇ましく乗っているが、三メートルない敵に十メートルの召喚怪獣を持ってくるあたり、絶対的チートでは無いかと思う。
確かに絶対に勝つ相手への暴力は楽しいだろうが。
「コノクソガ。」
「コノクソガ。」
にろにろ姉妹の声に驚いて彼女達の声がした方向へと意識を動かすと、俺はさっさとアルバートル達の安全を見守る仕事に戻りたくなった。
彼女達は彼女達の触手で拘束したそれぞれのオークを、コノクソと言いながらガンガンと打ち合って遊んでいるのだ。
オークは恐らく既に死んでいる。
ほとんど肉塊になって赤い血をぼとぼとと落としていても、それでも彼女達にごつごつとぶつけられている哀れな敵の姿に、俺は思わず合掌をしていた。
さぁ、アルバートルの所に戻ろう。
だが、俺は一応状況の確認をしておかねばと理性が働いてしまった。
オークと剣技真っ最中のイヴォアールではなく、ライフルを構えているエランにこそっと尋ねたのだ。
何が起きているのか、と。
彼ははぁと疲れた様にため息を吐くと、シロロ様です、とあきらめの口調で俺に報告し始めた。




