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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
ダグドと乙女と押しかけ騎士団
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生贄の娘達

 第五の城門、つまり城のエントランスを出てすぐの門扉となるが、そこを抜けた途端に六人の女性に囲まれた。


「ダグド様!お気をつけて!」


「ダグド様!ご武運を!」


「ダグド様!お怪我に気を付けてくださいね!」


 等々と、似たり寄ったりな無個性なセリフを俺に振りまく(元生贄の)女性達は、全員が俺の戻って来ない服を纏っており、俺は西洋の女性が日本の標準男性ぐらいの体格に育つことを失念していたと気が付いた。


「お前たちは、服が無かったのか!」


 彼女達はキャーと騒ぐと、物凄い勢いで生贄専用住宅へと駆け戻っていった。


「あ、怖かったか。」


「いいえ。急いで着飾りに戻っただけです。ダグド様から次々と素晴らしい布地を頂いておりますもの。わたくしたちに服が無いなどありえませんわ。」


 そういえば、走り逃げて行ったのは五人だけだったと振り向けば、残っていたのはここの古株で俺が差配人に指定しているエレノーラだった。

 青い青い瞳は空のように真っ青で、太陽色に輝く金色の髪によって彼女はひまわりのように美しい。

 こんがりと焼けたように見える小麦色の肌は健康的で小気味いい程なのに、彼女はその肌の色を薄くしたいとも悩んでいる可愛い所もある完璧な美女だ。


「そうか。君達は裁縫も得意だったね。じゃあなんで俺の服を着ているのよ。」


 俺の一番気に入っていた砂色のツナギを着た彼女は、俺と目が合うと誤魔化すようにガハハハッと豪快な笑い声をあげた。

 十三歳でここに捨てられた彼女であるが、持ち前の知的好奇心の高さで俺の作ったエレベーターなどの道具の意味をすぐに理解し、脅えるばかりで使用法も覚えない人間達に道具の使い方なども伝授してくれるという得難い人間である。

 また、前世で知ってはいても調理法を知らない食物に関して、俺の望むような食品に加工するべく奮闘もしてくれる最高の人材でもあるのだ。


 キャロブはダイヤモンドのカラットの語源にもなった植物であるため、理工学部の俺が知っていただけであるが、それを俺が食べたいと望むチョコレート風に俺が加工方法を知っているはずもない。

 俺どころかシロロまでも魅了されているチョコレート風シロップを手に入れられたのは、エレノーラ様様のお陰なのである。


 そんな有能どころか、外見がとてもゴージャスな美女でありながら、俺に差配人に指定されたがためにこの世界の基準では行き遅れという辛酸も舐めていた。

 まぁ、ここの女性達が若い男達を一切受け入れないのだから、エレノーラにも辛酸でも何でもないのであろうが、俺は独り身を守る彼女達が辛いのだ。


 エレノーラのように彼女達が捨てられたのは、大体が十二、三歳くらいの細く幼い妖精のような姿の少女の頃だったのである。

 俺の胸を高鳴らせるほどの。

 けれども、今の彼女達は俺の領地で三度の食事を約束された上で農業に勤しんでいるからか、良い青年だと思わず言ってしまいそうな体格に育ち切ってしまった。


 もともと生贄に選ばれるだけあって、彼女達は器量の良い娘達だ。

 恐らく、西洋系の男性諸君には全員が垂涎の美女となり得るのだろうが、残念ながら前世が日本人で標準体型の俺には大味すぎてピクリともしない。


 どこが、とは言えないが。


 つまり、俺の恋人やなんやらになりたいと望まれても、俺には無理なのだ。

 俺の居住区に彼女達を立ち入らせないような造りにしたのは、彼女達に俺が襲われないようにとの俺の安全策でしか他ならない。

 だが、俺の服を着ているが、俺には恋心ではなく友情を向けてくれるエレノーラには気安さを感じ、俺はいつしか彼女に微笑んでいた。


「君は着替えて来ないの?」


「あら、ダグド様と一緒に歩ける機会など早々ないではありませんか。」


「危ないかもよ。」


「ダグド様が敵に破れたら、ここの暮らしはお終いです。一緒に戦いますよ。」


 エレノーラは俺が昔に与えた大筒をガチャリと音をさせて肩に担ぎ、俺はそんな彼女の勇姿と覚悟にほろりと来た。

 あぁ、シロロがこのぐらい義理堅かったらどうなのだろうか、と。

 この面倒はあの生き物が原因であるのに、と。

 子供の不始末の尻拭いをする親って大変だなぁと、少々情けなく感じたからだ。


「大丈夫だよ。君こそ失われたらこの城の損害だからね、安全な所で後ろに控えているんだよ。」


 歩き出した俺の背中に、かなり重い衝撃が襲いかかった。

 どん、だ。

 エレノーラが全身で俺の背中に抱き着いて来たのだ。


「あぁ、ダグド様!あなた様が滅ぶときはわたくしも一緒でございます!」


 俺は失敗したのかもと空を仰ぎ、背中の重たい責任をくっつけながら、敵の待つ城門へと歩き続けた。

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