面倒な案件は誰かに投げよう
俺が悩んでも仕方が無いと、俺は保安部隊に情報収集を頼みに行った。
そして、全員馘を言い渡したいほどに、彼らは俺の頼みを一蹴した。
「どうして嫌なんだ。百文字以内に理由を述べよ。」
「少し字数が多いです。二十文字以内でいいですか?」
普段は小石を投げつけたいお調子者だが、必ず俺に乗ってくれるカイユー様だと、薄茶色の髪をした若々しい青年に今回は期待した。
「よし、いいぞ、カイユー。」
「俺達は事が起きてから動く暴力装置です。」
「畜生、その通りだったよ。」
「ちょっと待ってください。暴力装置で無いって、そこは否定してくださいよ!」
慌てた声を上げて会議室の椅子から立ち上がったのは、カイユーと同じくらい若いフェールである。
彼は真っ黒の髪に黒っぽい瞳のせいか、日本の高校生を彷彿とさせる。
「いや、だってお前。目の前にムカつく奴が現れて金を出せと脅してきました。どうしますか?」
「普通に殴って二度とそんな馬鹿なことが出来ないように説教ですよ。」
「バカ、甘いぞ。そいつの家に行って家の奴らも説教しろよ。」
フェールの俺の想定内の答えに対し、俺がさらに頭を抱えねばならない解答を重ねてきたのは、彼らを指導する立場の団長様だ。
「すいません。アルバートル様。それ本気?うちの竜騎士名乗ってから、そんな行動を今までにしていないよね?ね?」
俺は少し慌てていた。
無駄に戦闘力の高い彼らがそんなことをしていたら、ダグド領、普通に悪の枢軸国呼びでも当り前じゃ無いのって。
彼はハハハといつものわざとらしい笑い声をあげると、大丈夫ですと、やっていないと否定しない言い方をした。
「大丈夫ですって。芋引く馬鹿はうちの隊にはいません。」
俺は目の前がクラっとなり、しかし、そんな俺を支えてくれたのは、アルバートル隊の唯一の俺の安息所である、金色に輝くティターヌだった。
彼はいつものように俺を気遣う目で俺を見つめてはいるが、俺が同性愛者に対して寛大なのを良い事に、俺の腰を我が物のように抱き寄せてもいる。
「ティターヌ、支えてくれてありがとう。もう大丈夫だ。」
「ダグド様はお疲れ様ですからね。腰が抜けたのではないかと。さぁ、どうぞ、腰かけ下さい。精のつくお茶でも淹れてまいります。」
彼は女性だったら惚れそうになるほどの優しい手つきで俺を椅子に座らせると、言葉通りにいそいそとお茶を淹れに行った。
「ば、ばかやろ!」
俺が真っ赤になりながらティターヌの後ろ姿に悪態をつくと、時々中学生男子の保健体育教室になるアルバートル隊は一斉に笑い出した。
「あぁ、もうどうしようかな。アルバートル。本当にランダルの辺りにゴブリンはいないのかな。」
アルバートルはうーんと唸って記憶を引き出そうとしはじめた。
俺がなぜ彼に尋ねたのかは、彼が教会の聖騎士時代に、経験値獲得のために利き手封印ナイフサバイブでゴブリン峠潰しに勤しんだ過去があるからだ。
「あの辺りって開けているからゴブリン自体がいないのですよね。俺がゴブリン潰しをしたのは、もっと北ですね。」
「俺は北が嫌い。」
ぽつっとカイユーが呟いた。
「本当に嫌いなのか?行きたいから嫌いって言っているだけか?」
俺が聞き返すと彼は頬をぷうっと膨らませた。
「もう。本気で嫌ですって。」
可愛らしく頬を膨らますはシロロがよくやる素振りであり、俺は心の中で、カイユーお前もか、と呟いていた。
シロロが我が領土に来たばかりの頃、シロロよりも先に我が領土に来ていて俺の保護下で娘のように育てられた乙女隊が、シロロの真似をして俺により可愛がられようとチャレンジして来た時があるのだ。
そこまで思い出して、俺の大事な娘同然の乙女隊の一人と付き合い始めた一人の姿が見えないと俺は気が付いた。
「イヴォアールはどこに消えた。消えた場所如何では、あいつの明日はないぞ。」
「えー。普通に遠足ですよ。モニークさんとシロロ様とエランという組み合わせで。あ、あと、にろにろ姉妹もか。」
フェールの答えに俺は朝食時間を思い出し、シロロがにろにろ姉妹と俺が理解できない会話をこしょこしょしていたなと思い出した。
「フェレッカか?あいつはにろにろ姉妹が面倒になるとクラーケンのお父様に帰しに行きたくなるからね。」
フェールは答える代わりに俺から視線を避け、頭領であるアルバートルに視線を動かすと彼はこれ見よがしに銃の手入れをし始めており、俺は俺が好きだと言ってくれているティターヌに望みをかけた。
あ、糞、給湯室にいやしねぇ。
「飛行機ですよ。」
答えてくれたのはカイユーだった。
「あの壊してしまった飛行機を迎えに行ったのです。」
「あの西の森にか?」
ほんの三ケ月ぐらい前、モニークは俺が作ってやった飛行機を西の森に墜落させ、俺は彼女に新しい飛行機を作ってやると約束していながら果たしていなかったと思い出した。
「あぁ、忘れていた。俺の責任か。シロロがいるから大丈夫だと思うが、彼らからSOSが着たら教えてくれ。」
「SOSはありませんが、ダグド様がここに来られる五分前に誘拐者からメッセージが入っております。ガルバントリウムでも狂信者と名高い茨騎士団のボードウィン様直々ですが、どうされますか?」
短銃の手入れに余念がないようなそぶりをしながら、アルバートルが今日の天気は雨だというような口調で尋ねて来た。
俺は大きく溜息を吐き、数分前にアルバートルが吐いたセリフそのままをこの愚連隊たちに吐くしかない。
「そいつらのアジトに行って、しっかり説教をかまして来い。」
アルバートルはジャキッと音をさせて銃を組み立て終えると、俺にそれはそれは素晴らしい笑顔を見せつけた。
「この、悪党が。」
「俺はダグド様の義兄、ですからねぇ。」




