一度はやってみたかった朝の珈琲
ここまでのあらすじ
結婚しました。(by ダグド)
朝のコーヒーとは、専門店に行くとトーストと卵までつく朝食セットの事ではなく、初めての朝を迎えた二人が照れ笑いをしながら、いや、幸福感に包まれながら一緒にコーヒーを飲むという、独身だった頃の俺の憧れだった儀式の事だ。
前世の俺は恋人も年の数だけいなかったという身の上であり、飼っていたモルモットの朝の世話に追い立てられて自分のコーヒーでさえ満足に飲めない日々であったので、朝のコーヒーというか、二人で迎えるゆったりとした朝には、とてもとても憧れを抱いていたと言ってもよい。
生まれ変わった俺は竜ともなっているが、愛した女と結婚式を挙げたばかりという新婚だ。
だったら絶対に毎日のように朝のコーヒーを手にできるはずの男の筈だ。
が、俺は結婚して一か月、二人だけの朝が一回しかない。
それも、十分もしないで終了したという、たった一回だ。
俺は愛妻が横に寝ているはずの光景に目をやって、俺とエレノーラの間に納まって眠りこけているシロロに大きく溜息を吐いた。
彼は俺とエレノーラの結婚を祝福した癖に、俺とエレノーラが二人で朝食を囲んでいる姿に大泣きし、二度と俺達だけで朝食を取らせるかという意志なのか、タイマー付き自動テレポート魔法を自分にかけたのだ。
つまり、朝の時間になると寝ている彼が寝ているまま俺のベッドに移動してくるという、新婚にはとっても迷惑な魔法だ。
今日は彼だけではなく、なぜか、保護生物から俺の養女へとジョブチェンジしたクラーケンの娘達まで転がっていた。
青い髪の毛の方がグリフィンで、緑色の髪の毛の方がアーウィンだ。
彼女達は俺ににろにろ姉妹とひとくくりに呼ばれてしまっているが、上半身がフィギュア人形のような造形で、下半身がタコかイカのような十本の触手があるというにろにろそのものなのだから良いであろう。
「君達は生け簀で寝ていないと体が乾燥しちゃうんじゃないの?」
心配二割に生け簀に戻れよ的面倒臭さ八割を含んだ俺の問いに、熟睡しているにろにろ姉妹が答えるはずもない。
俺は軽く首を振ると、城の台所まで瞬間移動をし、独身の時にはやりもしなかった朝食づくりに取り掛かることにした。
結婚は最初が肝心だと、先人の言葉は本当に的を得ている。
俺はきっと最初を失敗したのだろう。
俺は初めての朝、二人の朝のコーヒーに憧れるばかりに、チコリのお茶と簡単な卵料理、そして温め直したパンを持って眠っていたエレノーラを起こしたのだ。
彼女は物凄く感動し、そして、俺が朝食を用意するが夫婦の決まり事というか、つまり、朝食づくりが俺の仕事となったのである。
義務になった途端にキラキラ感が消えた朝のコーヒー。
結婚とは独身時代の夢を壊しながら続けていくものなのであろうか。




