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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
獣はネオテニー化するべきか
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結婚式は不幸があると中止となるのが常である

 結婚式は身内の不幸があると中止となるのが常である。

 ビクトールという青年を失った俺達は喪に服すべきなのだが、不幸があったからこそ祝い事である結婚式こそするべきとのことだ。


 陣頭指揮はアルバートルだ。


 彼はエレノーラの兄という立場からエレノーラの俺への反旗をへし折っただけでなく、夕飯抜きだった俺が彼女の食事にありつけたのであるからして、助けられた俺が彼に何の文句があろうか。


 まぁ、何が起きたのかというと、まずエレノーラの部屋に俺達は忍び込んだ。

 アルバートルがエレノーラから盗んだ俺のツナギを返すためであるが、俺達は、というか半裸のアルバートルと一緒の俺、という場面をエレノーラに見つかってしまったのである。


「に、にいさん。あぁ、ダグド様も。二人してわたくしの部屋で何をなさっているのです。に、兄さんはどうしてそんな格好なの!」


 俺は普通にエレノーラに事情を話すつもりだったが、アルバートルはどんな戦況でも結果を出す男だった事を俺は忘れていた。


「いや、お前のベッドにダグド様を放り込もうと思ってね。俺はその指導かな。これから全部を脱いでだね、どんなポーズが女を誘えるかってさぁ、模範演技って奴。」


 エレノーラは真っ赤になったが、怒りではなく、恥ずかしさの方だった。

 アルバートルは俺と彼女の目の前で、下着まで脱ぎ捨てたのである。

 神様を模したような見事な体躯であるが、そこらじゅうに傷跡が残る、地獄を歩いてきた男の体でもあった。


「きゃ!って何をやってるのよ、兄さんは!早く、はやく服を着て頂戴。」


「だってお前はダグド様を虐めているんだろ。可哀想に、誰もいない広場で、たった一人で、黄昏ていたんだよ、このお人は。この領土の保安係の長としてだな、俺は領主様のみっともない姿を領民に晒すべきではないと。」


「そして己の裸体を晒していると。君には感謝しかないよ。」


「もう、ダグド様まで!わかりました。ごはんも作りますし、わたくしはダグド様を許して差し上げます。」


「よし。じゃあ、予定通りに結婚式もするぞ。それからな、お前らに子供が三年出来なければ、俺が適当な捨て子を拾ってくる。この世は捨て子がごまんといるんだ。子供のいない人生なんか俺が妹のお前に与えないからな。安心して嫁げ。」


 俺はアルバートルの言葉で、どうしてエレノーラが赤ん坊に拘ったのか、どうして俺と育てたがったのか、ようやく理解できたといってもよい。

 俺は全裸の素晴らしき兄を押しのけると、俺の花嫁の手を取った。


「俺との結婚は人間の君には不幸なのかもしれないが、俺の幸せのために付き合ってくれないか。俺も君が幸せになれるように努力する。君を愛しているんだ。」


 俺の両手の中のエレノーラの両手は引き抜かれ、俺はそのことにがっくりときたが彼女を解放をするべきだという答えなのだと諦め、だが、俺は彼女にグイっと物凄い力で抱き寄せられた。


「私は一生ダグド様が何も出来なくて処女で終わっても、絶対に後悔しません。こんなにもあなたを愛しているのですもの!」


 プロポーズの言葉の返事がこれでは悲しくなるが、俺こそせっかくのプロポーズを全裸男の前でしてしまったのだから仕方が無いであろう。

 そして、正面から見たアルバートルの全裸は、傷跡など霞んでしまうくらいに、同じ男としてショットガンで撃ち殺してやりたくなるほどに、物凄く羨ましいものをぶらさげた、いや、神々しさのある肉体美だった。


 そんな先日の大騒ぎを思い出してしまうのは、俺が祭壇で花嫁をいまかと待っているからだろう。

 結婚式の誓いはリリアナの音楽室で行い、お披露目は広場で領民全員で、という当初通りの流れとなった。


 リリアナの伴奏無くして何とする。

 ヴィクトールがこれが良いと選んでくれた曲だ。


 さて、俺の花嫁であるエレノーラのドレスは上半身は体に沿い、下半身部分はカーラという花を逆さにしたようなシンプルな物だったが、俺が結婚式に間に合うように製作したレース編み機で編んだレースを胸元や袖口そして裾にふんだんに飾っていた。

 そんな素晴らしいドレスを身に着けた彼女が、真っ白な天使の格好をしたシロロの先導を受けながらゆっくりと俺の元へと歩いているのだ。

 アルバートルの腕を取って歩く彼女は、ベールを被っていてもなんと美しいものであろうか。


「俺は何と幸福な男であろう。」


「おここー。そうじゃな。結婚は終わりでなく始まりというじゃからな。カカカ。明日からが大変なんじゃ。ものすっごく、わしも最初の結婚は苦労もしたぎゃな。」


 丸顔のしわくちゃの爺が、自分の言った言葉に満足そうな笑い声を立てた。


「このくそ爺が!」


 なんて、平和で幸せなんだろうと、俺は俺の足元にまで辿り着いたシロロの頭を撫で、それから花嫁へと手を差し出した。

俺は披露宴会場を見回した。

野外では寒いからと城に領民を招いたはいいが、石造りの広々とした城の方が寒い気がする。


「君は寒くないか?エレノーラ。」


「大丈夫よ、あなた。こうしてあなたと毛布を肩にかけてくっついていられるのですもの。」


俺は美しき妻に鼻の下をしっかり伸ばせて見せたあと、防寒用に出した毛布を被ったカップルが他にも確実にいるはずだと慌てて再び会場を見回した。

俺はエレノーラという素晴らしき伴侶を手に入れたばかりの幸運の男だが、大事な娘に悪い虫がつくことを許せない現役のお父さんでもあるのだ。


大事なモニークがイヴォアールの毒牙にかかっていないかとモニークの姿を探し、そこで俺はぴきーんと硬直せざるを得なかった。


どうしてノーラとアルバートルが仲良く一枚の毛布にくるまった姿で談笑してるのだ?

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