さぁ、広い草原へ
フェールとカイユーは軍服を着ていない。
潜入任務であるからだが、俺は彼らにできうる限りの傍観者であるように命じたからでもある。
つまり、積極的に戦闘行為を起こさず、出来る限り人死にを出さないように努めろという、特攻野郎たちには酷な命令だ。
彼らは当たり前だが承服しかねるという顔を見せたが、俺はこの先の出来事を狼族に委ねたかったのである。
牢から解放された彼らが一直線に開放への扉をくぐるのか、逃げるのではなくフェリテアの民を道連れに死を選ぶのか、俺は見届けたかったのだ。
もし、フェリテアの民を害しようとすれば、俺は彼らを異界流しにする。
結果は、彼らはフェールとカイユーの誘導に素直に従い、驚くべき身体能力で、なんと、フェリテアの城門をくぐるのではなく城壁を超えて外へと逃げて来た。
アルバートルとイヴォアールは彼らを輸送機に乗り込ませると、手はず通りにダグド領へと舵を切った。
「団長、団長ってば!ちょっと待って、忘れ物、忘れ物だって!」
「そうですよ。ビクトールがまだじゃ無いですか!」
アルバートルはフェール達の騒ぎ声に一瞥を与えただけだ。
代わりにイヴォアールが下を見ろと指を差した。
輸送機から見下ろせば、そこにはエランとデレクがアスランと共にダグドの旗の下にいる。
騒いでいた二人はほっとした顔を見せあうと輸送機の中に落ち着き、狼族の者達も今までの虐待による疲労の為か、捨て犬のように身を寄せ合って眠り始めた。
俺は会議室のスクリーンを眺めながら、一緒に顛末を見守っていたティターヌの肩を抱いて引き寄せた。
いや、彼も俺の肩に腕を回しているのだから、俺達は肩を寄せ合って抱き寄せ合っていたのだろう。
「あいつらになんて説明したらいいのだろう。」
「仲間の戦死の報を聞くのには慣れています。」
「あれは戦死何てものじゃないだろ。ただの自殺だよ!あぁ畜生!俺はその幇助をしたんだよ。あいつが死にたがりなことを知っていて、別行動を取らせたんだ。」
「彼の体中の怪我が仲間によるものだとご存じだったから、あなたは彼を別行動にしたのでしょう。あなたは彼が戻ってくるものと信じていた。死なせる気など無かったはずです。」
「ティターヌ。君は俺を良いように取りすぎだ。」
「違いますよ。あなたは良い領主様なんです。今までの俺達にはこんな悲劇は日常茶飯事だったんですよ。英雄気取りの馬鹿が、仲間の為に自殺行為に近い戦死を遂げる。それでもこの先は生きているよりはいいだろうと、生き残った俺達の方が地獄に生きていると、仲間の死を悼むよりも羨ましいと考えてしまう日常でした。人の死がこんなに重くなってしまったのは、あなたの作ったこの世界のお陰ですよ。ですから、初夜を脅えずに、出来なければ出来ないと先送りにすればいいのです。エレノーラは待つでしょうし、あなたがエレノーラを失う事もない。そして俺達にはこの世界が永遠に続きます。」
「ばかやろう。なんて慰め方だ。」
「あなたが永遠のピンクな竜でいることこそ、俺の望みですから。」
「本当に馬鹿者だ、お前は。」
ビクトールは囮となってフェリテアの民に追い回され、そして、アルバートルを怒らせた、フェリテアが作り出したあの業火の中に飛び込んだのである。
彼はエレノーラを失った場合の俺である。
だからこそ、俺は彼の行動の先を知っていながら、彼が業火に飛び込むに任せたのかもしれない。




