勇者の代りに討伐隊がやって来た
ここまでのあらすじ
真っ白な可愛いちびが突然現れた。
そいつは魔王様であらわせられるので、とりあえず一緒に住むことにした。(by ダグド)
どおんと、大砲の様な、ではなく大砲が俺の城、というか城壁を襲った。
朝食の真っ最中で、シロロはパンケーキに夢中だったがために聞こえない振りをしてそのまま食事を続け、俺もこの魔王様に従うことにした。
つまり、何もしない、だ。
俺の城は火山とそこにある洞窟を利用するように建てられているが、城に辿り着く迄には五つの門と三重に張めぐされた城壁を破壊する必要がある。
ではここで問題だ。
俺に捧げられた生贄とやらは、一体どこに捨てられていたのか。
勿論、五つ目の城門という、俺の住む城のエントランス真ん前だ。
なぜかは知らないが、俺を害する意思を一切持たないどころか、敬愛をもって崇めたてる者には、城門は勝手に開かれるらしいのだ。
求めよ、されば開かれんか、ふざけるな。
最近では生贄を連れて来た人間そのものが、そのまま生贄と一緒に俺の領地に居付くなんてこともままある。
俺は枯れた髭ボーボーの爺など欲しくはない。
牛や羊どころか、乙女も乙メンも、もういらない。
街の育成ゲーム系なんか、好きじゃない男だったのだ。
どおん。
どんどんどんどん。
「うわ、まただ。外で一体何が起きているの。」
カウンターの魔法がかけてあるので、物理攻撃にも少々の魔法攻撃にも対応できると思うのだが、大砲の音の後に起きたどんどんという連続音には、魔力の響きもあった。
これは、複数による攻撃か。
「城壁は破られはしないだろうが、攻撃が執拗だね。ちょっと、様子を見て来てくれない?」
返事はない。
シロロは二枚目のパンケーキにブルーベリーソースをかけようか、もう一度メープルシロップを掛けようか悩んでいた。
俺は彼が使い物にならない生き物だと知っていたではないかと自分を叱ることにして、敵が俺を待ち望んでいるらしき第一の城門へと久しぶりに出ることにした。
そう、閉じこもっていてはいけないのだ。
今後の生活の平和を考えたら、ポータル使えば楽じゃん?と人間達に気付かせるわけにはいかないのだ。
俺が立ち上がったのと、第一の城門前で攻撃をしている奴の声が響いたのは同時であった。
「我々は聖イグナンテス教皇による聖騎士団である。黒龍ダグドよ、われらがエメランタ司祭の仇として、我ら聖なる槍の錆とならんことを!」
出会った頃にシロロが着ていた白いローブが妙に高級なものだったと思い出し、彼を見下ろせば、彼は俺から顔を背けており、イナゴ豆ソースにしようか蜂蜜にしようかとぶつぶつ唱えているという解り易い誤魔化し方をしていた。
ちなみにイナゴ豆とはキャロブとも言い、現世でもこの世でも一番チョコレートの味に近い代用品だ。
「おい、エメランタって誰だ?」
「こ、この茶色のソースは甘いだけじゃなくて、ほ、ほろ苦さもあっておいしいですね。」
「おいしいはいいから、誰なの?エメランタ。そして、エメランタはどうなってしまったの?」
話し渋るシロロの代りに、外の親切な敵が答えてくれた。
まぁ、ただ喚いているのが聞こえただけだが。
拡声魔法は本気でうるせぇな。
「お前が教会に紛れ込ませた悪鬼に、我が聖堂の一つは汚され、偉大なるエメランタを失う事となった。この咎、決して許すまじ!」
「そっか。よくわかった。」
俺の呟きにシロロはびくっと肩を震わせ、窺うように俺を見上げた。
大きな真っ黒の目はこれ以上ないぐらいに見開かれ、俺の姿さえも彼の瞳に映りこんでいるのが見えそうなくらいだ。
いや、もう、怒る?と、飼い犬が飼い主を伺っているそのしぐさだ。
この、ろくでなしめ。
俺は以前の大柄な男の姿を取ると、ダイニングの椅子に掛けてあった布をマントのように羽織った。
少しくらいはボスキャラ風味で出現するのも、敵に対する敬意であろう。