狼族の建国宣言
狼族の雌が三人生還した。
たったそれだけで種の存続として可能となるのか難しいが、取りあえずは狼族はここで自殺的行為をする必要もないのではないだろうか。
そして、ブランドンは俺の言葉を素直に受け入れ、以前にアルバートルがビクトールに提案したとおりに俺の領地の一部に建国したのだ。
新たな国はフェンリルと名乗った。
俺の好きな北欧神話の恐ろしいオオカミの名前だ。
ビクトールでなくポッと出のブランドンが族長としてその宣言をした事にアルバートル隊の面々は少し思う所があったようだが、狼族の族長というものは血筋もそうだが経験のある年長者が務めるものらしく、ブランドンが族長となることこそふさわしいとビクトールが言うのならば誰も否定できるものでは無い。
さて、国の無い者が奴隷的生活を強いられても誰も助けることが出来ないが、故郷がある者が外国で捕えられ、捕らわれた者の国から国民の返還請求が来たならば、請求を受けた国はどうするべきであろうか。
受けるしかない。
要求を突っぱねれば、ならず者国確定だ。
そして、たった五名の狼族の国だけではなく、俺という武力のある国の王が自国の民の返還を求めたらどうなるのであろうか。
俺はこれを見越していたであろうアスランの老獪さに笑いながら、俺の無辜の民が誘拐されて収容所に入れられていると通商云たらを通して世界に訴えた。
フェリテアという国は他国の人間を誘拐しては奴隷にしていると、フェリテアの危険性までも演説してやった。
すると、二日もしないでフェリテアは使者をダグド領に送ってきて、アスランに関しては不幸な間違いが重なったのだと謝罪し、賠償金と共に彼を返却すると申し出て来た。
彼らがアスランなどいないと突っぱねれば、俺が以前にトレンバーチにした行為をするだけの話であり、フェリテアはそれこそを恐れたのであろう。
そして、悲しい事にフェリテアの使者は普通の人間だった。
家族を隣人を愛し、平和をこそ望んでいるという、正直者の普通の人間だ。
「フェンリルの狼たちはどうした?彼らは私の友人だが?」
「フェンリル?そのような国は知りませんな。我が国には収容所だってありません。刑務所はありますが。そこにいる者達は我が国の民であり、罪人ばかりです。狼族は泥棒し、家畜を殺し、子供までも盗みます。それも、組織的に、です。ようやく捕えて、今までの罪の罰を受けさせている所なのです。」
「狼族だけが罪人ばかりなのか?」
「フェリテアは裕福な国です。市民が泥棒などするはずは無いでしょう。それに、犬族は働き者で人間に牙をむく事などありません。」
これは狼の絶滅に必死になった人間の言い分と同じだろうが、俺達の会話はデミヒューマンに関してのものであるはずだ。
外見が違っても、同じ考え方や同じように社会認識ができる相手であるならば、そこに優劣はつける事など出来ず、ましてや、一緒に住んでいる隣人に対して牙をむかないなどという言い方は、犬族を見下していると告白しているのも同じではないだろうか。
俺は使者のその台詞で一つの方向性が決まったといってよい。
「そうか。とりあえず、アスランは無事に返してくれ。傷一つつけずに。彼の傷一つにつき、俺は君達の街の大通りを一本破壊しよう。」
その言葉を告げた後に俺は黒竜の姿を取り、俺の姿を見た使者はあからさまな脅えを見せるとホームタウンの魔法を唱えてフェリテアに逃げ帰った。




