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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
獣はネオテニー化するべきか
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魔王様が召喚

 俺達は結局アルバートル隊の詰所である見張り台に戻り、そこの会議室で今後の事を話し合うことにした。


 彼らは俺が車を彼らに与えるかと期待をしたようだが、俺は瞬間移動という魔法が使える黒竜様である。


 彼らアルバートル隊はあからさまながっかりを俺に見せてだらけ、シロロは勝手知ったるで会議室のクッキージャーを漁り出したので、俺は俺だけはと不幸なビクトールに集中することにした。

 だが、聞いてがっかりせざるを得ないのが、アスランの行方が狼族が押し込められている収容所であったことだ。


 ビクトールが抜けて人数が足りなければ問題になる。


 人質志願の老いぼれは嬉々としてビクトールの代りに奴隷専用車に乗り込み、そこの収容所に納まったのだろうと推測した。


「おここーだ。だけど、よく見とがめられなかったね。匂いでわかるでしょう。」

 収容所の看守も護送車の見張りも犬族なのだ。

「犬族は狼族の殺気には耐えられません。彼らは人間が決めたことに従うだけです。俺達には後が無い。いくらでも暴れてそこで死ぬことが出来る。」

「あれ?」

「どうしました?ダグド様?」

「いや、アルバートル。だったらどうして今までに反乱して死ぬ気がなかったのかなってさ。どうして今なんだろうって。」


「隠していた最後の雌と子供達が殺されたからでしょう。」


 俺とアルバートルはしれっと答えたシロロに振り返り、知っていたのかと同時に叫んでいた。

 シロロはぷるぷると可愛らしく首を振ると、まさか、と答えた。


「じゃあ、どうして知っているの。」


「召喚術です。ブリューという女の子が出て来たので聞きました。」


「え、いるの、そのブリューって子はいるの?」

「ブリューがいるのか!」


 俺は周囲を見回し、ビクトールは必死な声を出した。


 それに対してシロロはニヤリと笑うと、会議室のテーブルにぴょんと腰を下ろし、そして、ぱちんと両手を打ち鳴らしたのである。

 すると、テーブルの下の暗がりから怪我をしていないビクトールが出て来た。


「あ、こんにちは。」


 いや、ワンピースと言えなくもないものを着込み、声が女の子だったので、この人狼がブリューなのだろう。


「姉さん!」


 これが証拠だ。


「あぁ、姉さんだ。生きている。どうして!」

 俺もどうしてと思ったが、実はとってもドキドキもしていた。

 召喚術で召喚されたのならば、彼女は時間が経ったらぽんと消えていなくなるのではないのか、と俺は考えたのだ。

 この現れた姉に必死に抱きついている青年に、姉が再び消えるという喪失感を与えてしまったらどうなるのであろうか、と。


「わからないわ。気が付いたらここにいて。あなたも無事だったのね!あぁ、どうしたの、こんなに怪我だらけで。そして、こんなに大人になっちゃって。」

「あぁ、ミゼット。あれから二年も経っているのだもの。でも、良かったよ。あぁ、ミゼット。生きていたんだね!」


「おい、シロロ様。この人お名前も違うようですよ。生きている人ですか?生きている人を召喚されたのですか?」


 シロロはパチンと自分の頭を叩いた。


「あ、さっきの子と違う人だった。ちょっと待って。」


 彼は小首を傾げて数秒固まっていたが、再びパチンと手を叩いた。

 テーブルの下からまた人狼が出てきたが、今度はビクトールと違って少し長毛で大柄で黒っぽいお方だった。


「あの、ここはどこですか?」

「おい。男の声じゃねぇか。誰だこいつは。」

「あぁ、ブランドン!生きていたのね!」

 ビクトールの腕から彼の姉はするっと飛び出し、彼女はもしゃもしゃの黒毛に抱きついた。

「おい、シロロ!一体何をしたんだ!」


 シロロこそ腕を組んで小首を傾げてうーんと唸っていた。


「僕もよくわかんない。なんか、ブリューを呼び出すたびに彼女がぴょんぴょん飛んで行って、変な空間に繋がるの。」


「なんだそれ。おい、ビクトール、お前の姉さんはどうやって死んだんだ。」


「あの、死んだところは見ていません。二年前に俺達を殺しに来た人間、魔法使いが作り出した黒いものに姉さんたちが吸い込まれてしまったので。」


 俺は会議室の天井を見上げた。

 そして、ビクトールの未来が見えた気がした。

 彼はもう死ぬという選択をしなくともよい。

 魔法使いの使った異界流しの犠牲者であればシロロが呼び戻せる、いや、恐らく死んだブリューという娘がシロロに呼び戻させているのだ。


「シロロ、どれだけ異界流しに遭った人狼を呼び戻せる。いや、ビクトール、その異界流しに嵌ったのはあと何人だ!」

「あと、あと、三人です。俺の親父が魔法使いを噛み殺したので。」

「そうか。シロロ、あと三人はできるか?」


「うーん。」


 シロロは悩んだ風を見せ、俺はそこで彼にも負荷がかかっていたのではとようやく気が付いた。

 魔法や異能というものは、使えば自分に返ってくるものもあるのだ。


「シロロ。お前は大丈夫なのか?体に負担が来るのならばここで止めろ。」


「ダグド様!俺達の仲間はどうでも良いのですか!」


「うるせぇな!こいつは俺の大事な子供なんだよ!」


「きゃあ!」


 シロロはとっても嬉しそうな悲鳴を上げた。

 そして俺を見上げると、それはもう素晴らしいほほ笑みを顔に浮かべたのだ。


「僕、ぼくは大事な子供だったのですね。」


「もちろんだ。悪さばっかりするが、大事な俺の子供だ。」


「では、異界流しの人を呼び戻します。」


 シロロはとっても嬉しそうな声をあげると、子供の玩具の猿人形のようにパンパンパンパンと手を四回叩いた。


 四回?


 俺は慌ててテーブルの下を覗くと、そこにはワンピースを着たビクトールより白っぽい二人と、ビクトールの毛並みに黒毛がまばらに生えている一人と、そして、ピンクブロンドの髪をしたアリッサが驚いた顔で揃っていた。


「どうして、アリッサが。」


 アリッサもリリアナやモニークと同じに俺への生贄として俺の領地に捨てられ、そして、俺の娘同然に育てられてきた乙女隊の一人である。

 彼女は持ち前の都会的な美貌と達者な口上で、我がダグド領の商品を高く高く売り飛ばせるというダグド領にはなくてはならない営業担当である。

 そんな彼女はテーブル下を覗く俺を見上げると、小学生の様に顔を歪めてうわあんと泣き出した。


「ほら、どうしたの。どうしてアリッサが。ほら、おいで。」


 俺は周りも気にせずに彼女をテーブル下から引き出すと、子供のように抱き上げて、そして宥める様に背中をぽんぽんと叩いた。


「うわぁ、怖かったね。どうして君が。って、シロロか。」


 シロロはうんうんと頷き、だってと、俺と会議室にいるみんなの背中が寒くなることを言い放った。


「エレノーラに子供が出来たらお払い箱になるわねって意地悪を言うのだもの。だからアリッサをお払い箱にしちゃったの。」


「――違うよ、シロロ。アリッサもモニークもリリアナもシェーラもノーラも俺の大事な娘なんだよ。アリッサは意地悪を君にじゃなくて、多分、自分の事を言ったんだと思うよ。アリッサ、よしよし、そんなことは無いんだからね。全くこの子はまだまだ子供だ。」


 俺がさらにあやすと俺の腕の中でアリッサは大きくうわーんと声をあげて泣いて、そして、ごめんなさいと言った。


「アリッサ?」


「だって、シロロちゃんばっかりダグド様は可愛がるのですもの。」


 俺がシロロに振り返ると、彼は完全に勝利者の顔でニヤついていた。


「アリッサ。ごめんなさい。僕はもう君を異界流しにしないよ。」


「君を、じゃない。彼女達はお前のお姉さんなんだからな。異界流しを誰にも、二度と、するんじゃない。わかったな。」


「ダグド様!俺達はシロロ様のお兄さんです!そうですよね!」

「俺達こそダグド様の息子ですよね!」


 物凄く必死な声を出したフェールとカイユーだが、彼らならいいよと、俺はシロロに言いそうになっていた。

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