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転生先が物語分岐の中ボスという微妙な立ち位置だった  作者: 蔵前
獣はネオテニー化するべきか
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狼族とアスラン

 人道的な立場からビクトールの現状を知れば、アスランとデレクが彼に肩入れをした気持ちは痛い程に解るというものだ。


 狼族は獣人としては一番野性の本能が強く出ていると言える。


 彼らに人里で犬のように生きろという事こそ侮辱であり、俺は話すほどにビクトールが自殺的な結末を望んでいるような気もしていた。

 彼らの仲間は強制労働のために普段は専用の宿舎に押し込められており、他国からの労働の依頼があれば貸し出され、その現場で奴隷のように働かされるという毎日なのだ。


 アスランが彼らと知り合ったのは、俺が滅ぼしたザワークローゼン王国がアスランの国の隣国であったという地理的なものによる。

 ザワークローゼン王国は滅んだといっても統治者が消えたというだけである。

 その問題について通商云たらが出張ってくるのは当たり前であり、彼らはそこに勝手に幹部を置いて実質支配を宣言し、ザワークローゼンに埋蔵されていたプラタナス鉱石の採掘を嬉々としてし始めたのだ。


 そこは別にかまわない。


 奴らがプラタナス鉱石を無駄に高く貧しい国に売りつけるというならば、俺は俺の太陽電池を貧しい国に贈って嫌がらせをするだけだ。


 実際、俺の贈った太陽電池システムで、アスランのコポポル国はプラタナス鉱石を買っていた時よりも安定した生活が送れると喜んでいる。


 話が逸れたが、プラタナス鉱石の採掘に連れて来られた労働者がビクトール達であったというのが今回の発端だ。


 狼族の強靭な肉体と反抗心を抑えるために、彼らの食事は二日に一度だ。

 監督者の鞭や棒の使用も取り扱い説明書では義務付けられている。

 こんなことが義務とは、と思うが、彼らを制圧した時の自分達の被害を知っている人間と犬族にとっては、彼らの解放こそ一番恐れる事なのだろう。


 俺は魔王の意見を聞いてみることにした。

 シロロこそ魔族達の特性を知っている。

 彼が思う方向こそ狼族の幸せであり、そこを俺が修正して誰もが幸せ的な方向へシフトさせられるのかを考えるのはどうだろうか。


「シロロ、お前だったらどうする?」

 突然俺に話を振られた彼は、デレク家の甘いお茶にさらにデレク家のベリーシロップを追加している所だった。

 俺はデレク家の食料を漁っているシロロやカイユー達を眺めながら、デレクの今後を少し思いやってしまった。


 絶対に奥さんに叱り飛ばされるであろうと。


 そして、そんな俺の気も知らない狼藉者は、俺の問いに俺を見返すことなくさらっと答えたのである。


「え?あら、そんなの、アスランを助け出して、狼族を全部殺します。」

「だな。お前はビクトールの気持ちや性質がわかりすぎるって事を俺は忘れていたよ。」


「え、どういうことですか!ビクトールは死ぬことを望んでいたのですか?」


「デレク。彼らは誇り高くて人と共生できないんだよ。彼らの望みは終焉だよ。あぁ、アスランも元は妖精だ。そこまで知っての人質志願なんだろうな。」


 シロロが来たことで戒めを解かれても大人しくしているビクトールでもあるが、彼は頭を垂れるどころか俺に期待の視線を浴びせてきた。


 我々を殺してください。


「いや。俺は狼は好きなんだよ。そうだね、定住できないのなら、お前達は荒野を彷徨うというのはどうだ。村を襲えば同じ未来が待っているからね、取りあえずの食料と財産として羊をやるよ。遊牧して、増やして、時々俺の領地に羊を売りにこい。誰の庇護も無い辛い生活だが、どうだ?」


「ははは。俺達に荒野を彷徨えと。」

「ああ。」


 俺はビクトールを見つめ、そして彼も見つめ返し、そして、頭を垂れた。


「俺達には雌が残っていません。種族として終わりなんです。年老いて屍になるだけでしたら、今、このまま戦って死にたい。」


「わかるよ。俺達もそんな気持ちでダグド様の元にやって来た。信仰を失った教会にはいられない。教皇によって死の呪いも受けている。ならば、竜と戦って死のうとね、思い詰めていた時もあったからね、君の気持はわかる。」


 今は無邪気にピンクな竜におねだりをしている体たらくだがな。


 しかし、アルバートルの慰めにビクトールはぐらっと来たらしく、本来の年齢の十八歳に戻ったのか、アルバートルの腕に引き寄せられたまま彼の体に身を寄せた。


「団長は本当に素晴らしい。」

「エラン。俺は君の純粋無垢さこそ素晴らしいと思うよ。」


 彼は貴族的ともいえる端正な顔をぐしゃっと歪めた。


「嫌味ですか?どうせ俺は経験のない男です。」

「え、うわ、ダグド様。」


 俺はエランの肩を抱いていた。

 そして、本日の悩み事をエランではなくアルバートルにしておいてよかったと、自分の幸運を祝っていた。


「エラン。経験の無さは恥じることは無い。」

「そうですね。結婚はこれからもできますから。」


「え、アルバートルは結婚をしていたの?え、奥さんはどうした!」


 ビクトールを慰めていた男が俺に視線を寄こし、口元を皮肉そうに歪めた。


「アルバートル。」

「――死にました。子供を産むときに、子供と一緒に。よくあることです。」


 畜生、俺は電気自動車をアルバートルに贈らねばならないようだ。

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