人獣族の現状と本来のゲーム上のシナリオ
人獣族という種族は、ゲーム上の設定として、狼型、ウサギ型、キツネ型等をモブの住人として揃えてはいたが、ストーリー展開に大きく関わってくるのは狼型の人獣である。
俺と友人が作ったストーリー展開では、シロロが魔王レクトルとなった暁に、人間と共存していたはずの狼族が人類を裏切る。
彼らは人間よりも優れた身体能力と残虐性で魔王の軍団の一員となるのであるが、狼族の裏切り者がゲームプレイヤーに対して狂言回しとなって一つのクエストにプレイヤーを導くのである。
ネタ晴らしで言えば、狼族の青年が狼族を裏切るのは、彼が狼族ではなく、犬族だったからである。
人間との共存を叶えていたのは犬族であり、それを良しとしない狼族は魔王降臨の際に人間と一緒に犬族をも皆殺しにしていたという設定なのだ。
そして俺の目の前に現れた、彼、ビクトールは、狼族の若き族長となる人物の方であった。
シロロが魔王にならなかったばっかりに、狼族の方が人間と犬族の組み合わせに負け、奴隷の身として落とされているという現状なのだ。
俺は聞きたくもないビクトールの身の上相談を聞きながら、ゲーム製作者として頭を抱えるしかなかった。
すなわち、狼族を助けることは、イコール、今後の展開として人類への殺戮行為者を助けるという事でもあるのだ。
「お願いします。ダグド様。彼の家族とクランの仲間の解放に動いてはくれませんか?僕だって錆び付いてしまったこの剣の腕を振るいます。」
ビクトールの隣で彼の部族の命乞いを懇願するデレクであるが、俺には捨て犬を飼っていいかと親に懇願する少年のようにしか見えなかった。
はっきり言って、ダグド領で領民を賄える人数に領民数は既に達している。
自給自足で賄えるギリギリの数であり、俺はその自給自足で賄える、という事にとてもこだわっている。
自給自足で賄えなければ、食料は外から仕入れる事となるが、この世界の商品の流通を独占している通商云たらと俺は敵対関係に近い。
彼らに流通を止められたら、外からの食料に頼った分の領民は飢えて死ぬのだ。
一応は奴らの作った組織の加盟国となっているが、彼らのとにかく利益だけを、それも自分の懐に求めようとする姿勢がどうしても受け付けないのであるからして、俺は俺のせいで死ぬ領民の未来を作りたくないと自給自足で賄える領民数に拘っているとそういうわけだ。
「狼族の、いや、ビクトールのクランの総数は何人になる。それから、ビクトールをここに入れれば他のクランもここに押し寄せるだろう。その場合のことは考えているのか?」
デレクはハッとした顔つきとなり、彼が俺の問いによって、自分の思い当たらなかった事に気が付いたようだと理解した。
デレクは通商云たらの騎士となり、俺の領地への工作員、それも一個師団迄引き連れて派遣された程の有能な兵士であったが、彼が一兵士でしかないというのはこういった場合にアルバートルとの違いが謙虚に現れる。
アルバートルとデレクの違いは、自分自身で隊の面倒を見て来たのか、その点であり、俺がアルバートルを好むのは彼が俺の領地に来るまで一人で団員の生活を守っていたからであろう。
そして、人獣族という人間よりも身体能力がはるかに優れた者達の数が非戦闘員ばかりの俺の領民と拮抗すれば、彼らが領民を人質に俺の領地を支配できるであろう可能性もアルバートルは考えている筈だ。
人助けを唱える方は気分がいいものであろうが、人助けのその後を考えねば人助けなど不幸しか呼ばないというものなのである。
「テントを張らせましょう。ダグド様。西の森の手前で彼らに村を作らせるのです。ぎりぎりダグド様の領地であれば、彼らに対しての庇護は叶えられますし、現在飼育統制をしている羊の遊牧も彼らに任せてしまうって事も出来ます。」
西の森には危険な生物が多数住んでいる。
アルバートルはビクトール達をそれらの障壁にし、尚且つ、領地で増えすぎて餌問題となりかけている羊の問題も片付けられると提案しているのだ。
「さすが、アルバートル。そうだな、できるか?ビクトール。羊の飼育を任せても良いのならば、俺の領地にお前達狼族が村を作ることは許す。」
しかし、ビクトールはふざけるなと俺達に吠えた。
その上、鋭い爪を持つ手でデレクを引き寄せ、デレクを殺すと叫んだのだ。
「俺の仲間を今すぐこの領地に入れろ。理解できなくば、この男の父親を俺の仲間が殺す。理解したか?俺はお前達にはうんざりなんだ。奴隷でいるのにもうんざりなんだ。ここに魔王はいるのだろう。俺達は魔王と共にここに自由の居城を立てる。」
俺とアルバートルは大きく溜息を吐いた。
アスランが人質に取られていたことに気が付かないとは、デレクはなんと純粋すぎたのであろう、と。
そして、純粋すぎるデレクを怒らせたらどうなるのであろう、と。
兵士としては最上に近い身体能力を有するデレクは、自分を捉える人狼の腕を捩じり上げ、その腕が脱臼した音を肩で立てたことにも顔色を変えずに、情け無用でその哀れな人狼を床にしたたかに打ち付けたのだ。
「父はどうした!言わねば殺す。父が傷を負っていれば、その傷の数だけお前の仲間を殺す。さぁ、言え、言うのだ!」
俺とアルバートルがデレクを押さえつけたのは言うまでもない。




