デレクよ、あれは若さゆえの過ちだ
「今日のダグド様は俺から目を逸らしっぱなしですけどね。」
俺はアルバートルの腕を引っ張ると、俺を見返して来た彼の瞳を真っ直ぐに見て、初夜ってどうするの、と口パクしてやった。
するとアルバートルは、ただやればいいんだよ、と口パクで返した。
「いや、だからさ、その行動で傷つけたら怖いって話でしょうが。」
「だから、傷つけたら宥めりゃいいじゃ無いですか。最初何て失敗するのが当たり前なんですからね。いい感じにやれるの何て何回か後ですよ。」
「そっかあ。為になったよ。君って本当に俺のお兄さんだ。」
「今度お兄さん言ったら、俺はあなたをピンクの竜って呼びますよ。」
「あ、畜生。俺のトラウマを。表に出ろ。」
「いいですよ。でましょう。今すぐ出ましょう。」
俺達は仲良くデレク家の玄関を一歩出たが、二歩目はデレクという家主に服を掴まれていたので出せなかった。
「二人とも何をやっているのですか!ここにこんな困った人がいるというのに!どうして悩み事を聞いてあげないのですか!」
デレクはやっぱり青い奴だった。
悩み事を聞いてお終いならば俺達はいくらでも聞いてやるが、確実に解決を望んでいそうな人間の悩み事など聞きたくはないのである。
「あなたはこの僕の不幸の為に戦ってくれたでは無いですか!」
「いや、それは違うぞ、デレク。あれは成り行きだ。」
「ダグド様、本心は隠してください。」
「そんな、だって、僕に何度もお願いをさせたでは無いですか!」
「いや、お願いじゃない。俺が乞うたのは正確な情報だ。戦争ってな、武力を行使して人殺しもする行動だからな、正義の旗印がそこに有るか無いかが一番大事なんだよ。」
デレクは俺の言葉に目を白黒させ、そして、自分が匿った人獣に対してごめんなさいと言って抱きついた。
「すいません。でも、僕は君を守ります。あぁ、僕はアスランさんになんて言ったら良いのだろう。」
「ダグド様、この先は聞いてはいけませんよ。」
「わかっている。わかっては、いるのだが。俺は詰んでしまったようだよ。」
デレクの家にはデレクの妻と、あと一人、彼が親子の盃を交わした御仁が住んでいる。
その方はコポポル国の前王にて、死んだはずのデレクとデレクの妻に自分の再生能力を使ってただの人間となってしまった元妖精コポポなのだ。
俺はあの爺さんが自分の爺さんのようで大好きなのである。
そして、あの何百年も生きて来た老獪な爺さんがこれを仕組んだのならば、小物の俺がこの面倒から逃げきれるわけは無いのだ。




