デレクの家の客人
デレク君とは通商云たらの元所属騎士であり、俺が滅ぼしてしまった王国出身という不幸な生い立ちの青年だ。
栗色の巻き毛は頭の上でくるっとして、大きな瞳は綺麗な水色だ。
彼はそんな瞳を少年のように輝かせて俺を出迎えたが、それは出会った頃の俺の無体な仕打ちを俺が恥ずかしく思う程の俺への歓待ぶりだった。
「よくぞいらしてくれました!」
「急ですまないね。君に相談事があってね。」
「そうだん、ごと?」
俺の言葉を繰り返すや彼はハッと顔を曇らせ、少年のような顔つきを元々の経験豊かな戦士だった時の表情に変え、それから俺とアルバートルに対してあきらめにも近い静かな声を出したのだ。
「やはり、気づかれてしまいましたか。」
俺はデレクに適当な笑顔を見せて「ちょっと待って。」というと、アルバートルの腕を引いてデレク家の玄関のはじに二人で身を寄せた。
「ダグド様、今すぐ帰りましょう。」
「さすが、アルバートル。今俺が言おうとした台詞だよ。何も聞くなよ。」
「当り前です。」
兄弟となった俺達は共感力が増したらしい。
互いが感じた「しまった」感を察知して、それが同じ物だと共有すると、デレクにお暇を告げるべく同時に彼を見返したのだ。
畜生、俺達は仲良く意思確認するよりも、仲良く走って逃げるべきだった。
ほんの短い間だったにもかかわらず、デレクの後ろには血のにじんだ包帯姿の人獣がゆらりと立っていたのである。
狐のような大きな耳に全身が柴犬色の毛並みをした彼の外見は二本足で立つ獣そのものだが、ダークグリーンの静かで絶望の影のある瞳には知性があり、ガウンを羽織ってもいる事から人と同じ社会的感覚もあるのだろうと窺わせた。
この領内に入って来れたという事は、彼にはこの領内を侵す意思など無いという事を証明してはいる。
だがしかし、この領内には害意を判断して来訪者を選別する城門を通らずに領内に入り込めるテレポートの出来る旗魔法もかって存在していたのだ。
それを使えば殺し屋だって俺の領内に入り込めるという事で、最近旗の位置は城壁外へ変えたが、位置を変える前ならば、とまで考えて、その割には怪我も最近というか、なぜ俺が彼の存在に気が付かなかったのだろうと不可思議さの方が増した。
「彼はどこから来たのかな。」
アルバートルが俺を庇うようにして前に出て、相手がデレクだろうと俺に害意を見せれば殺すという殺気を放った。
そして、デレクは俺達の来訪が後ろの客人に対するものでは無かったのだと気が付くと、血の気を失った真っ青な顔となった。
「あ、ああ、すいません。ダグド様。これには訳が。」
しかし、人獣の方が誰よりも冷静だったようだ。
彼はその場に膝をつくと、俺達に首を差し出すごとき頭を下げて自分のうなじを見せつけた。
まるで奴隷のようなしぐさだと俺は感じ、俺の頭のどこかがぶつっと切れた。
「それはなんのつもりかな?俺は君が誰で、どうして俺の領内にいるのかだけを知りたいんだ。まずは立て。目を見て話せない奴を俺は信用しない。」




