こそこそ話
ここまでのあらすじ
ダグド領に呼んではいけないお方が到来した。
ルルイエへお帰り下さい(ぶるぶる)、ってな感じだ。
そして、ヘタレな俺はここまでかと覚悟を決め、俺と心中するつもりの最愛の女性の手を取り、これが最後だからと告白した。
「結婚して欲しい。」
そう。
俺は十月一日に結婚することになりました。(by ダグド)
「ちょっと、お兄さん。そこのお兄さん!」
追い詰められている俺は、領内の広場をうろついていたアルバートルを見つけたので、ちょうど良いと物陰から彼を呼んだのである。
アルバートルは俺に振り向き、それはとても嫌そうな表情を浮かべると、俺の隠れている物影にのそのそと歩いてきた。
「義理の弟に兄と呼ばれる事を楽しみにしていましたが、場末の客引きのように呼ばれるとは想定外でしたよ。」
「君のその爽やかそうでうらぶれた世界どっぷりなそこを見込んでいるんだ。いいから俺の相談に乗れ。」
彼は大きくはぁっと溜息を吐くと、では歩きながらでも、と言った。
俺は彼の横に立つと、いや、すぐに物影に引っ込んだ。
「何をやってんですか。」
「いや、だって、相談内容を他の人に聞かれたくないし……。」
「その可愛らしい話し方を止めてください。」
「え、君はお兄ちゃんでしょう。俺のお兄ちゃんになったんだよね。」
アルバートルは俺を殺してやりたいという殺気まで放ちながら、とっても大きい舌打ちをした。
俺は彼を揶揄うことが少し楽しくなっていたが、真面目に相談しなければならないくらい追い詰められている自分を助けられるのは彼しかいないと方向を転換した。
「すまない。アルバートル。俺は本気で悩んでいるんだ。」
「俺の妹との結婚を取りやめたいのですか?」
「……君の選択肢はデッドオアアライブしかないのか?」
「……死ぬか生きるかの兵隊なもので。」
「縛りプレイが好きなくせに。」
「変な性癖に聞こえる言い方は止めてください。で、悩みって?」
ずいっと騎士団をまとめる男そのもののオーラ迄出して俺に凄んで来たが、俺の悩みを聞いた彼がどのようなリアクションを取るのだろうか。
「ダグド、様?」
俺はつばを飲み込んで、左右に人影がないかも確認し、そして、アルバートルに自分の悩みを打ち明けた。
「最初の女性ってどう扱えばいいんだ?相手は凄く痛いんだろ?」
「え、そんなのは適当に宥めてやってから、つっこめば――。」
そこでアルバートルは名前通り石膏で出来た人形に変わり、俺は石化魔法など唱えた覚えは無いはずだと彼が動き出すのを待つことにした。
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彼は動き出すまで六秒かかり、動き出してからは早かった。
物凄い棒読みの回答だったが。
「すいません。俺は竜騎士の前は教会の聖騎士だったものですから、女性と男性のそういう事はわかりかねます。最近彼女が出来てお花畑のイヴォアールは如何でしょうか?」
「あいつに会ったら殺しそうだけどいいか?」
「いや、あの。そうですね、彼はやめましょう。」
アルバートルは大嘘つきのろくでなしだが、彼は俺がイヴォアールに男女の秘め事を聞けばそれをモニークに簡単に変換するだろうと気が付いたのだ。
先程彼が口ごもって石化したのは、きっと自分の過去の行為の映像に妹であるエレノーラが混ざってしまったに違いないのだ。
「……他にいないか?」
「他って、まぁ、経験ない奴はいないと思いますが、あなたの悩みに答えられそうなやつは俺の団ではいませんね。」
俺もそういえばそんな気がしていたと納得しながら、緑がかった宝石のような目を持つ美青年の顔が浮かんでいた。
「エランも汚れてしまっていたのか?」
「――そう思われるなら、どうしてエランに聞きに行かなかったのです。」
「シロロが纏わりついているだろ。」
「――確かに。それでは、結婚経験者にしましょう。あのデレク君はどうですか?」
「そうだね。一緒に行こう。」
「一人で行ってください。」
「お兄ちゃん、お願い。一緒に来てくれないと、今後は君をお兄ちゃんとしか呼ばないよ、いいの?」
彼はギリっと真っ白な歯が砕けそうな歯ぎしりをした。




