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罰はどうするべきか

 カイユーとフェールの言い訳は俺は聞く気は無い。


 それは団長であるアルバートルに任せることにした。


 アルバートルは俺にはとても友好的な笑顔を見せたが、彼らに振り向いた時にどんな表情を見せたのかは俺は知らない。

 が、カイユーとフェールが五歳児ぐらいの泣き顔で俺に助けを求めたので、それはそれは物凄い顔をしていたのだろうと推測した。


 それよりも、俺はシロロだ。


 親として彼を叱責せねばならないが、彼は最終ボスの魔王様で俺はクラーケンどころか、西の森の毒キノコ妖怪、畜生、シロロが言うにはあの瘡鬼は動く毒キノコなんだそうだよ、さえも太刀打ちできない物語前半程度の実力の中ボスだ。

 それでも今後の事を考えれば、俺は父権を行使しなければならないであろう。


「ねぇ、君は何がしたかったの?」


 結局父権を振りかざせなかった俺に対して、シロロはにろにろ姉妹の父親を連れて来たと子供っぽく自慢した。

 さらに、クラーケンの王様であるお父様はオーラが凄すぎて、俺と全く交信が出来なくなったのと可愛らしく笑った。


「嘘を吐け、お前は世界の魔王様だろうが。」


「嘘じゃありません。僕は暫定魔王です。僕が世界魔王として君臨するにはまだまだパワー不足です。海の現王に勝てるわけはありません。」

 今度は偉そうに腰に手を当てて、フンっという感じに言い返して来た。


「そうか、わかった。だがな、お前の行動のせいでモニークの飛行機は落とされ、見ろ、イヴォアールはこんな状態だ。」


 俺が手で示した先では、地面に腰を下ろしてモニークと抱き合っているイヴォアールがいた。

 ラブシーン真っ最中の彼らの傍らで、赤面したエランがイヴォアールの左足にヒールを必死にかけているという光景だ。

 エランは魔法の使えない設定の銃騎士でもあるが、ジョブチェンジ前は司祭見習いなのでヒールと状態異常解除の魔法は使えるのだ。


 だが、エランの事情よりも、イヴォアールだ。


 さっきまでモニークに俺に触るなと愁嘆場を見せていた男が何をしているのだと、俺はイヴォアールに怒鳴っていた。


「おい!トゲイボはどうした!」


 モニークの顔から顔を離したイヴォアールは、てへっという感じで破顔した。

 鼻の下がオラウータン位に伸びている間抜け面だ。


「クラーケン様の海水で消えました!」


 馬鹿っぽいイヴォアールに呼応するように、モニークも華々しく幸福に満ちた顔で俺に振り向いた。

 いや、俺を素通りしてシロロへ、だ。


「ありがとう。彼が助かったのはあなたのお陰ね!」


 シロロは優越感に浸った顔で俺を見上げて両腕をあげ、俺は敗残兵の気持ちで彼を抱き上げた。

 肩と頭の上のにろにろ姉妹がぶつぶつと煩いが、俺の代りにシロロに対して、この糞と、罵倒してくれているのだと思うことにした。


「全く。死ぬ死ぬと大騒ぎしていた俺一人が馬鹿みたいだ。」


「そんなことは無いですわ。ダグド様はとても素敵でしたし、わたくしは今日ほど幸せにしていただけた日はございません。」


「そうなの?ちゃんとドレスを着て結婚のお祝いをしなくてもいいの?」


 エレノーラはぼっと音がするぐらいに真っ赤になると、夕飯の支度が!と叫んで領内に走り去って行った。


「ありがとう。君が変わらないでいてくれて嬉しいよ。」


 でも、結婚したのだから彼女に何もしないわけにはいかないのだろうと考えると、頭ががくりと下に下がった。


 にろにろ二号が頭からずり落ち、シロロの頭にどんと乗った。

 シロロは物凄く嫌そうな顔をすると、アーウィンを掴んでクラーケンに投げた。


「おい!」


「アーウィンは本当のお父さんに可愛がってもらえばいいのです。」


 言い切ると、彼は俺の肩にいるグリフィンもつかんでポンっと投げた。


 彼女達が自分の体にくっついたと分かったからか、クラーケンの王様はズズズと動き出して、再び元来た方角へと進み始めた。

 フシュウフシュウと水蒸気の靄を再び吐き出しながら。


「あぁ、すっきりした。これでダグド様は僕だけのお父様です。」


「お前、あの二人が嫌いだったんだ。」

「嫌いじゃ無いですよ。いらないってだけです。」

「それはもっとひどいと思うな。」


 しかし、俺も実は彼女達を持て余していたこともあり、実はシロロの行動に感謝している自分もいた。

 どんなものが好みかわからないどころか、彼女達の生態が全くわからないのであれば、彼女達を育てていく事などこれ以上は無理なのである。


「まぁ、いいか。これで大団円で。」


「ダグドダグドダグドダグド。」


 えっと声がした足元を見ると、にろにろ姉妹が俺の足元に戻っていた。

 どうして、っとお父様を見返せば、それは立ち止まり、俺に振り返っているような体の捩じり方をしていた。


「えっと、お、お忘れ物、ですか?な、投げ返しても良いですか?」



「オオオオ、コノ、クソガァアアアアア。」



 太い太い深海からの声を響かせると、お父様は再び前進して去って行った。


「うそ、ちょっと!お忘れ物、お忘れ物ですって!ほら、シロロ君もなんか言って。俺はあちらさんの言葉を話せないんだから!」


 しかし、俺の魔王様は俺の腕の中で大きく舌打ちをしただけだった。


「どうしたの、シロロちゃん。あの人、なんて言っていたの?」

「くれるって。子供は腐るほどいっぱいいるからって。次は重石をつけて海に沈めれば戻って来ないかな。」

「可哀想だからそれは止めよう。それに、エレノーラも俺の城に住む事になったから、エレノーラには意地悪しないでね。」


 シロロはぴくっと片眉を動かしたが、小首を傾げてニコッと笑った。


「エレノーラは僕のママになりたいって言った人だからいいですよ。」



 この世界はエレノーラ様が最強なのかもしれない。




「ご婚約、おめでとうございます。ダグド様」


「しらじらしいよ、アルバートル。」


俺は奴が今回どこまで計画して、そして、どこまでコントロールしていたのか尋ねようとしたが、そんな俺の思惑外しは彼の専売特許である。


「……電気自動車。いいですね、あれ。」


領民の避難誘導の為に運転した電気自動車に、彼はどうやら心惹かれてしまったらしい。

て、いうか、オートマと言えどもすぐに運転できたこいつの能力はすご!


「ええと、君には素晴らしいお馬さんいなかったか?」


アルバートルは見惚れる程のハンサムな顔を歪め、俺が思わず何か貢ぎたくなるようなジト目で俺を見返して来た。

しかし俺は自分のおしゃべりな口が何も言わないようにときゅっと閉じた。


電気自動車の原動力は水素だもん。

壊し屋のお前にはやれないね!

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