俺の真実とシロロの真実③
確かに、彼が指さしたこの物干し台は俺が作ったものでは無い。
城と同じく最初からそこにあり、成人男性の身長程の高さのある芭蕉扇の骨組みだけのような金属の置物だ。
そしてその置物は、羽のない高級扇風機のように常に空気を吐き出している。
なので、洗濯したばかりの服を乾かすのに良いと、俺はとても重宝していたのだ。
どうやら彼の困った顔は、俺にポータルという秘密をバラして良いものか悩んだからではなく、ポータルに気付いてもいなかった俺の鈍感さへの呆れ顔だったらしい。
「困ったなぁ。あれを捨てたら洗濯物が乾かない。」
「それこそ召使にさせたら……。」
「食器は洗ってくれるけどね、服は洗ったら返してくれないんだよね。」
「どうして?」
「う~ん。服は俺からの貰い物に思えるのかなぁ。」
「貰い物って。……そういえば、お給金は?」
「いや。ないよ。召使と言っても勝手に城に棲み付いているだけだからさ。時々若い女の子や老人が城の前に捨てられるんだよ。そんな身の上じゃ追い払うのも可哀想だし、ここにいたいなら俺の飯は作れってやつ。」
召使だけでない。
時々家畜も捨てられ、最初は仕方が無く俺が育てていたが、そのうちに人まで捨てられ始めたので、俺は捨てられた人達に家畜の世話と俺の飯を任せることにしたのである。
俺は牛肉が食べたくても、自分が育てた牛さんを屠ることは出来ない。
名前をつけたら、それはもうペットなのだ。
「あの、それって、ダグド様へのイケニエだったんじゃないですか?」
「あぁ、そうか。そうだ、イケニエ。」
生贄、という言葉で俺は全てを思い出した。
十五年間のダグドとしての俺の今までの生活、ボンヤリと浮かんでは消えていた金髪の少女を含めた領民との生活を。
彼女達は召使などではない。
俺の今の大事な家族だ。
また、俺としての意識が無い時に、俺が捧げられた生贄の肉を喰らったこともだ。
人肉の味がダグドの力を強化させたが、皮肉にも俺の自我さえも目覚めさせ、俺は人を喰らって汚れてしまった我が身を呪ったのだ。
俺のボイラーを稼働させているもの、ボイラー第一号機には地熱とダグドの内臓の一部、竜であれば吐き出せる炎の吐息を作り出す器官が使われている。
俺は自分の肉体を切り刻んでボイラーとして組み立て直し、残った肉体を再編成して人型を取っていたのである。
俺はそのためにこの城に貼り付けられたも同然で、ゲーム世界にいながらも冒険などできはしない、つまり、この城の虜囚そのものの身の上だった事に気が付いたのだ。
「俺は勇者に倒されてこそ、なのか。」
「いいえ。倒させません。僕があなたを守ります。」
俺は可愛い子供を抱きしめた。
この子供を可愛がることが世界平和であるのだが、永遠の虜囚の俺に与えられた褒美なのかもしれないとも思えたのだ。
「お前には絶対的防御魔法があるのだものな。」
「はい。この暮らし。僕は絶対に手放しません。絶対に城を守ります。」
「俺こそ守れよ。このシロロは。」
「というわけで!我が家に子供が増えました!」
ダグド領はセンセーショナルに騒めくかと思ったが、そういえばここは姥捨て山とも呼ばれる高齢者がほとんどの領内であった。
しかし連れまわされたシロロは会う人々にお菓子を持たされていたので、彼的には幸せな体験であったと思う、ってかそうであって欲しい。
魔王様には、ここを滅ぼさない、という刷り込みが必要だと俺は切に思うからである。